(2017/4/1)

社外取締役という制度を考える

上場企業は、毎期、定期的に有価証券報告書を作成して、その地域の 財務局長に提出しなければなりません。私は、長く上場企業の会計の仕事を しましたので、何度も有価証券報告書を作成する仕事に関わりました。

有価証券報告書には、会社の沢山の情報が掲載されますので、会計担当部署 の全員で手分けして作成するのでした。私は学校を終えて入社した会社で最初、 会計課に配属されました。

その部署で私は出来上がった有価証券報告書がどういうものなのか、見たいな と思いました。有価証券報告書は上司の所にありました。そこで、上司の方(かた) に「有価証券報告書を見せてください。」とお願いしました。

上司の方から「何のために見たいのか。」と聞かれました。まだ新入社員だった私は 、「出来上がった有価証券報告書がどういうものなのか、見たいのです。」とは 言えずに、黙って引き下がるしかありませんでした。

今は、上場企業の有価証券報告書は会社のホームページに掲載されていますので、 新入社員も遠慮無く簡単に見ることができます。良い時代になったものです。

( T 社の有価証券報告書を読む )

ところで、現在、超大企業の重電メーカー、 T 社が会計を操作して批判されること から始まり、隠れていた巨額の損失が明らかになってきて、四半期報告書の提出もでき ないでいるという窮地に陥(おちい)っています。

私は、超大企業の T 社は一体どうしたんだろうと思って、 T 社のホームページ から直近の有価証券報告書(2016年3月期)を見てみました。そして、驚きま した。取締役の方が 10人おられるのですが、なんと、その内 6人の方が 社外取締役なのです。

しかも、更に驚くことに、その社外取締役の方達は、1 人の方が60代で、 後(あと)の方たちは全員が70代の高齢者なのです。しかも、その60代の方も 69歳で、最高齢の方はなんと77歳です。これはどういうことなのでしょうか。

社外取締役も取締役ですから、当然、取締役会に出席します。取締役会では 会社の各部署で作成された重要な経営資料が取締役に配布されます。取締役会では、 その経営資料に基づいて担当部署からの説明があり、取締役によって経営の判断、 意思決定がなされていくわけです。

しかし、個人差はありますが、69歳そして70代の高齢の方ともなると、通常、 老化のため視力が弱っていて、沢山の重要な経営資料を読めるものではありません。 つまり、社外取締役とはいえ、この高齢では、そもそも取締役の仕事をまともに 遂行するのは無理があります。

取締役会に出席して、経営の判断、意思決定をするのではなく、感想のようなもの を述べるぐらいがやっとになると思います。

私が勤務した会社には子会社がありました。その子会社に50代の顧問税理士の 方がおられました。その顧問税理士の方は50代で既に老眼でした。しかし、 仕事柄、書類を読まなければいけません。眼鏡をはずしたり、かけたり、目を 細めて書類に顔を近づけたり、と書類を読むのにとても苦労していました。

この顧問税理士の方は老眼になるのが平均より少し早いのかもしれませんが、 50代でもこのように老眼に苦労する方がおられるのです。まして70代では、 ほとんどの方は老眼になって、書類を読むのにとても苦労するようになると思います。

更に、人によっては本人も気付かないうちに認知症が忍び入って来ています。 超大企業の T 社が最悪の場合、倒産という危機に瀕しているのは、取締役会が多数の 高齢の社外取締役によって形骸化し、取締役会が機能不全に陥(おちい)っている からであると考えられます。

( T 社に社外取締役が多い理由 )

このように社外取締役が多い理由として T 社の有価証券報告書は次のように説明します。

「現在、取締役10名中、社外取締役が6名、執行役を兼務する取締役が4名と、 社外取締役が取締役会の過半数を占める体制とし、ガバナンスを強化しています。また、 経営者としての知見、財務的知見、法律的知見その他専門的知見を有している社外取締役 を選任することにより、取締役会の専門性・多様性に配慮しています。」
( 2016年3月期有価証券報告書、62頁 )

そして、このように社外取締役が取締役会の過半数を占める体制とすることによって、現在の 経営危機を脱する、というのです。

しかし、上記のように社外取締役が全員高齢者であることを考えると、この説明は 素直に受け取ることはとても難しいです。どんなに優秀な人も、高齢になれば年齢には 勝てず、まともな仕事が出来なくなります。結果として、社長を中心としたごく 少数の経営陣の方たちによって経営が独裁化されてしまいます。

悪くしますと、経営を独裁化するために、社外取締役制度を悪用して高齢者の社外取締役 を多数雇ったと疑われてしまいます。これでは、経営危機を脱することは難しいと思わざるを 得ません。T 社の各部署で一生懸命に汗を流して働いてきた社員は本当に気の毒です。

有価証券報告書によりますと、連結のレベルでは、超大企業の T 社の社員数は約18万人です。 18万人もの社員は、これから多くの方がリストラされたり、自主退職に 追い込まれていくでしょう。T 社の社員は経営者と高齢者の社外取締役たちの犠牲になって しまったのです。T 社の社員の方々は、 あわれとしか言いようがありません。

( 社外取締役は会社法に規定されている )

社外取締役は会社法第三百二十七条の二で次のように規定されています。

 「事業年度の末日において監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社で あるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項 の規定によりその発行する 株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものが社外取締役 を置いていない場合には、取締役は、当該事業年度に関する定時株主総会において、 社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない。」

この規定は法律にしては随分と回りくどい表現で、読んでも、なぜ会社法が企業に社外取締役を 実質的に強制するのか、規定の趣旨がよく分かりません。

企業にとって第三者である方が社外取締役として企業を監視すれば、経営がうまくいくという のでしょうか。もし、そう考えての規定であるならば、学校で企業に対する心情的な不信感を習って 卒業し、その後、社会の厳しい現実を体験しないでいるために、社会的にやや未熟なままの人の、 ものの考え方を感じます。

しかし、法律です。この規定を素朴に受け取る企業もあれば、悪用する企業もあるでしょう。 会社法にこの規定があるかぎり、T 社のように社外取締役が不自然に増える会社はこれからも 現れます。

そして、会社に70代にもなる高齢者の社外取締役が不自然に増えていった場合、それは結果と して、取締役会が形骸化し、社長を中心とした少数の経営陣が経営を独裁化して暴走し、 会社を救いの無い危機に陥らせていくかもしれないという危険信号です。

(了)