(2016/8/14)

「大企業出身の人は仕事ができないんだよね。」

私が30代後半で転職しようとしてある会社の面接を受けた時に、そ の会社の社長から「大企業出身の人は仕事ができないんだよね。」と 言われました。

厳しい言葉ですが肯(うなず)かざるを得ないところがありました。大企業 で働いていますと、仕事が細(こま)かく分業されていて狭い部分については よく知っているけど全体は分からないということがあるからです。

その上、大企業の場合は出世のための社内政治のほうが忙しくて 仕事の勉強に時間も気持ちも向けられないという場合もあります。

私が学校を卒業して入社した会社は上場企業でいわゆる大企業でし た。会計課に配属されました。上場企業の会計というのは、学校で習 った簿記や会計ではとても足りるものではありません。学校で習った ことを基礎にしてもっと広範囲の体系的な勉強の継続が必要でした。

しかし、仕事と直接には関係ない内容の昇格試験の準備とか、社内 の人間関係とかに時間を取られたり、神経を消耗したりして、本来必 要な勉強はなかなかできないのでした。

( 私が子会社の決算を担当したときの体験 )

これは、私だけではありませんでした。監査役や管理職の方(かた)も自分の 仕事をよく分からないまま、仕事をしているのでした。このことを、私は 子会社の決算を担当した時に痛切に思い知らされました。若かった私は、 子会社とはいえ、ひとつの会社の決算を全力で組んだのでした。

決算書ができて、「ふー、できた。」と思っていたところに、親会社 の監査役が監査にお出でになりました。そして、「法人税法には、 欠損金の繰越控除という制度がある。このような決算では、その制度 を利用できない。決算をやりなおしなさい。」ということでした。具体 的には、固定資産の減価償却費を減額して決算をやりなおしなさい、 ということでした。

私には、なぜ決算をやり直さなければならないのか分かりませんでし た。しかし、側にいた私の上司である課長は、一瞬だけ、間をおいて 「君、監査役の指示通りにすぐに決算をやり直しなさい。」と言うので した。

当時の私には、会計の原理原則に明らかに反する監査役の指示に反論す る力が無いのでした。私は、仕方なく監査役の指示どおりに決算をやり直 しました。

決算をすべて終えて、しばらくしてから税務署から電話がありました。 「あなたのところは会計の知識が足りないようだから、会計の指導を兼ね て調査に行きます。」というものでした。

固定資産の減価償却は計画的、規則的に実施しなければなりません。 そうでなければ、決算で計算された利益が意味を失います。税務署の担当官は、 上場企業の関連会社が、このような基本的な会計の原理原則に反してまで 法人税法の欠損金繰越控除制度を利用しようという態度が気に入らないのでした。 今の私には担当官の気持ちがよく分かります。

私は、2日間にわたって1人で税務調査を受けました。親会社の監査役は もちろん、上司の課長も税務調査の場にはいないのでした。そういうもので した。私は、会議費として処理していたものの中から何件か「これは税務上の 交際費です。」と税務署の調査官から指摘を受けました。私は指摘を受けた 税務上の交際費について修正申告をして、税務調査は終わりました。空(むな) しい気持ちが残りました。

親会社の監査役は、優秀ということで監査役に就任します。上司の課長も 優秀ということで管理職に昇格します。しかし、お二人とも現在の仕事であ る会計の基本のところをご存じないことが明らかです。

 「大企業出身の人は仕事ができないんだよね。」、私が転職のために受けた 面接で、そこの社長が私に言った言葉が胸に刺さります。上場企業のような 大企業では、担当の仕事に精通することと昇格が直接には結びつきません。

大企業で社員のマネージメント能力を総合的にアップして将来の管理職、 経営者の育成をするためには、どうしても仕事のローテーションが必要です。 色々な部門の経験を積ませなければなりません。しかし、経済が発達するほ ど、会社の仕事は複雑化して、一つの仕事を習得するのに時間がかかるよう になります。悩ましいところです。

( 経営者は財務などの基本を理解できなければならない )

しかし、これからの管理職や経営者には人をマネージメントする能力に加 えて、各種の専門分野の基本を理解する能力が必須です。会計にしても、 法律にしても、経済の発展につれて複雑化していきます。細部は専門の担当 にまかせるとして、専門分野の話を理解できるだけの知識が、これからの管 理職や経営者には欠かせません。

ここのところ、一部上場の大企業の良くないニュースを聞きます。液晶 テレビで有名な S社は、過剰投資で財務バランスを崩し、外国企業から多額 の出資を受けて、その外国企業の支配下に入ります。また、その名を誰で も知っている超大企業の T社は会計を操作して架空の利益を計上して批判を 浴びています。

両社で一生懸命に働いてきた社員はあわれです。経営者の誤りのために 社員が会社をリストラされたりします。理不尽なことです。両社の経営者 には財務や会計の話を理解できるだけの基礎知識が無かったのです。人を マネージメントする能力のみで社内出世したのです。私が若い頃、苦い思 いをさせられた監査役や管理職を思い出させます。

繰り返しになりますが、汗を流して一生懸命に働いている社員を泣かせ ないために、これからの管理職、経営者の方には、人をマネージメントす る能力に加えて、財務、会計、法律などの専門分野の話を理解できるだけの 基礎知識が必須です。

(了)