(2023/6/1)

新入社員時代に読んでおきたかった本

緑の木々が目に心地よい季節になりました。この4月に会社に入って、 新入社員になった人の中には、思っていたとおりにならなくて、悩んで いる人がいるかもしれません。

会社には良い人ばかりがいるわけではありません。私が経験したのは、 ある社員は新入社員が入ってくると、新入社員に私用を言いつけるの です。 「煙草を買って来い」と言うのです。当時は、社内で煙草を自由に吸うこと ができたのでした。

新入社員が、大人しく煙草を買ってきたら、こいつは大人しいな、と 次から次へと色々な事を言いつけて支配しようとするのです。悪人です。 このような悪人もいるのが会社です。

こうした悪人に振り回されずに、落ち着いて、うまく対応できる ように 会社員は心を鍛えておかなければなりません。

( ストア哲学の本で心を鍛える )

しかし、問題はどのようにして心を鍛えるか、ということです。私が、 辛(つら)いことの多い会社員生活を続けている中で出会ったのは、 ストア哲学者、エピクテトスの「提要」でした。30歳の頃でした。

もっと若い、できれば新入社員時代に出会いたかったな、と思うのです。 ストア哲学は、 ストイック(stoic)という日本語でも使われる言葉の 語源でもあります。

私は、スイスの法律家、カール・ヒルティの著作集の中で、 エピクテトスの「提要」を読んだのです。カール・ヒルティは敬虔で 熱心なキリスト教徒ですが、キリスト教のような宗教の理解にはある 程度の人生経験が必要であるため、まだ若い青年が心を鍛えて優れた 人格を養うためにはキリスト教よりストア哲学の方(ほう)が良いと 考えてエピクテトスの「提要」の原典を訳出し、註をつけたのでした。

私たちは、哲学というと難しい用語が沢山出てきて、そして、分厚い本 をイメージします。しかし、エピクテトスの「提要」には、難しい 用語は 1つも出てきません。例えば、最初の書き出しのところは次の ような文章 で始まります。

「ある物事にはわれわれの力が及び、他の物事にはわれわれの力は及ば ない。 われわれの力がおよぶものは、判断、努力、欲望、嫌悪など、 一語で言えば、 われわれの意思の所産である一切である。われわれの力 が及ばないものは、 われわれの身体、財産、名誉、官職など、われわれ の作為でないところの 一切である。〜 略 〜 」
ヒルティ著作集T幸福論 1 1978年9月5日再版第1刷発行  訳者 氷上英廣 白水社 41頁。

このように、難しい用語もなく日常の平易な言葉で書かれていくのです。 そして、全体は小冊子のように短いのです。

この本は現在、岩波文庫から「幸福論(第1部)ヒルティ著 草間平作訳」 として出版されていて、とても入手しやすくなっています。

幸福論 1 (岩波文庫 青 638-3)

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( 会社員はどのコースを進んでも厳しい局面に出会うことがある )

学校を終えて、企業に入り会社員として働き始めた人には将来に向かって いくつかのコースがあると思います。

1.定年までその会社で働き続ける
 
 2. 途中で他の会社に転職する

 3. 会社を退職して起業する

などが考え られます。

どのコースを進むにしても厳しい局面に出会うことがあると思います。 また、 定年までその会社で働き続けようと考えていても、経済の変化の 中で会社の 経営が傾いたり、あるいは業務の効率化によって自主退職に 追い込まれる こともあります。

厳しい局面に追い詰められても、心を乱さずに、その苦しい局面を冷静に 打開していける心の強さを若い新入社員時代に養っていたいものです。

ストア哲学は、若い青年の心を鍛えて、強い優れた人格を作り上げるの に多くの実例、実績があります。何といっても、良き時代の西洋の 古典教育の テキストです。

私はそのような人格になれたという自信はとても持てませんが、 それでも、会社生活の苦しい局面を乗り切るのに、エピクテトスの 「提要」 から教わったストア哲学に随分と助けられたのでした。

心を鍛える、ということは、現代日本の学校教育には全く完全に抜け 落ちて いる部分です。そのため、会社員は新入社員時代にエピクテトス の「提要」 によって、自分で心を鍛えて、会社生活で出会う色々な 苦難を 冷静に乗り越えていくことのできる強い人格を作り上げて いたいもの です。

(了)