仕事ができるフリをする男の罪悪について(2)
(前頁より続きます)
( 国民は海軍兵学校卒業生を崇拝した )
どうしてこんなことになったのか。これは、海軍兵学校の卒業生が国民 から崇拝といってよいほど崇(あが)められていたからです。野村吉三郎 は海軍兵学校を優秀な成績で卒業し、武官として海外勤務を長く経験し、 国際会議にも出席しています。
野村吉三郎は英会話ができると国民から信じられていたのです。野村吉三郎 は海軍兵学校を優秀な成績で卒業していますから、英文法、英文和訳、 英作文、はよくできます。しかし、英会話となると、英文法などの学力を 土台にして英会話を使える環境に身を置いて会話の条件反射を身につけなけ ればならないと言われます。
野村吉三郎は、武官として海外勤務を長く経験し、国際会議にも出席してい ます。英会話を使える環境に十分に身を置いたのです。それなのに、英会話 ができずに、アメリカ国務長官コーデル・ハルを相手に、英会話ができる フリばかりしていたのはなぜなのか。
これは、野村吉三郎の心の姿勢が原因です。野村吉三郎は海軍兵学校を優秀 な成績で卒業し、その心はエリート意識で舞い上がっていたのです。しかし、 英文法、英文和訳、英作文、の学力を土台にして、英会話の条件反射を身に つけるには、あらためて心の姿勢を低くして英会話を学ぶという謙虚な姿勢 が必要でした。
( 駐米大使はエリート意識で舞い上がっていた )
しかし、エリート意識で舞い上がっていた野村吉三郎は、英会話に対して、 そのような謙虚な姿勢が取れなかったのです。野村吉三郎ばかりではありま せん。
海軍兵学校卒業のエリート軍人は、皆、野村吉三郎と同じようにエリート 意識で舞い上がってしまって、対米戦争(太平洋戦争)中、同じ失敗を何度 も繰返してばかりいて惨めな敗戦を迎えたのでした。
もちろん、海軍兵学校卒のエリート軍人の中には、エリート意識で簡単には 舞い上がらないで、有能でしっかりした天才のような人もいました。しかし、 天才は本当に少ししかいません。
しかも、そのような天才は周りをエリート意識に凝り固まった無能な エリート軍人達に囲まれてしまい、その天才を発揮することができないまま 無念にも戦死したりするのでした(例えば、ミッドウェイ海戦の山口多聞少将など)。
( 人間の認識には三つのことがある )
ここで人間の認識について考えてみます。人間の認識には、私が考えるに、 三つのことがあります。
@ 記憶力によって覚えること A 知力によって理解すること B 体験によって身につけること 、の三つです。この三つが揃って人間の認識 は全体となるのです。
海軍兵学校卒のエリート軍人は、@とAの学校勉強は優秀です。そのこと によって、本人達は舞い上がり、国民は崇拝といってよいほど彼らを非常に 高く評価しました。しかし、学校を出て社会に出ればB体験によって身に つけること、が必要になります。
社会に出て仕事をすれば、失敗することがあります。その失敗の体験を 反省して次に生かすことによって人は成長していくのです。しかし、 海軍兵学校の卒業生は、エリート意識に凝り固まってしまってB体験に よって身につけること、が無いのです。
そのため、対米戦争(太平洋戦争)中、敵のアメリカ軍があきれてしまう ほどに、同じ失敗を何度も繰返すのでした。これは、海軍兵学校の卒業生 を国民が崇拝といってよいほど崇(あが)めたことが一番悪いのです。
海軍兵学校卒の無能なエリート軍人達を作ったのは、実は国民の彼らへの 崇拝なのです。
勇敢に戦った兵士達は本当に気の毒でした。戦争の指導層が無能な場合、 兵士が誠実に勇敢に戦うほど負け方がひどくなるのでした。
(次頁に続きます)
(追記)
「封印の昭和史 渡部昇一、小室直樹 初版 1995年8月31日 四刷 1995年10月15日 徳間書店」は2020年7月1日復刻版が出版されま した。
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