(2018/12/1)

現場経験の無い経営者の危うさについて(1)

私が会社を定年退職してから数年して、その会社で長く社長を務めた方(かた) が会長となって、新しい方が社長となったのでした。その時、新聞などの ニュースでは意外な人事と少し話題になりました。

私が勤めていた会社は消費者に密着した業種なのでした。そのような業種では、 通常、現場経験の長い方がトップに就任します。消費者に密着した業界では、 長い現場経験で身についた、消費者に関する肌感覚(はだかんかく)による 経営判断が大変重要です。

消費者の気持ちに敏感な感覚が身についていませんと、消費者に密着した業界の 会社経営トップとしての舵取りは難しいのです。

ところが、私が定年退職した会社の新しい社長は間接部門のスタッフとしての 勤務が長く、現場経験の全く無い方なのでした。スタッフとしていかに優秀な 方とはいえ、これで大丈夫なのだろうかと、私は一抹の不安を覚えたのでした。

成果主義の狂気じみた嵐の中で、降格を受けたりして辛いことの多い会社勤務 でしたが、定年退職して何年も経ってから自分の務めた会社のニュースに接す ると、余計なことかもしれませんが、自分が長く務めた会社への愛着と懐(なつ) かしさが自然に湧いて来るのでした。

( 新社長は危ない人事をするのだった )

社長が替わって、しばらくすると人事の発表がありました。インターネットが 発達したおかげで、会社のホームページを見ることで、かって務めた会社の人事 が分かるのです。

その会社のある重要な部署の責任者が替わりました。その部署は、私も勤務した ことのある部署なのですが、仕事の能力が必要とされることは当然ですが、 それと同時に、あるいはそれ以上に誠実で真面目な人柄が求められる部署なので した。

しかし、その部署の新しい責任者は、若かった頃、言動に粗(あら)さがあるの でした。私はその人と同じ職場で働いたことがありました。私はその人の上司 ではありませんでしたが、私の方(ほう)が年上だったこともあり、職場の 雰囲気を悪くしないように、その人の言動を少し注意したことがありました。

しかし、ごく常識的な事を、しかも私はその人の上司ではありませんでしたので、 注意深く遠慮気味に注意したにもかかわらず、その人は机を叩いて強く反発して きたのでした。

あの人をあの部署の責任者にして大丈夫なのだろうか、と私は不安を感じました。 そして、その後、やはりその部署から問題が起きて来たのでした。消費者は 敏感に反応して、売上が落ちて来ました。消費者に密着した業界では、現場経験 の全く無い人を会社のトップにするのは、やはり危(あや)うい部分があるのです。

そのようなトップは人事を誤る可能性があります。人事の誤りは、企業にとって 命取りになります。

( 大銀行から天下って来た人は急激な海外展開を進めた )

更に続けて良くないことが起きて来ました。私が定年になる何年か前、その会社に メガバンクと言われる大銀行から取締役として天下ってきた方(かた)がおられ ました。その人は、海外への事業展開を提案し、積極的に海外展開を進めました。

さすがに、メガバンクと言われる大銀行出身です。弁舌さわやかで、数字を使って の説得も巧みなようでした。

その人から見ると、帳簿管理の仕事などをしている私などは、地面をペタペタ 這って一生懸命に歩いている亀のようなものに見えるのに対し、ご自分は天下って 来て一気に空を飛んでいく鷲(わし)のように感じていたのでしょう。

私が期末決算業務に取り組んでいると、用事もないのに近寄ってきて「そんな仕事 をして、損だよ。」と露骨に軽蔑してくるのでした。私は仕事が忙しいので、邪魔 しないで、ほっといて欲しいなと思いました。

しかし、当時の社長は、すっかりその人を信頼し、その後、常務取締役に抜擢した のでした。海外進出は進んで、いくつかの外国に事業所が出来ました。

社内では、海外事業所勤務を希望することが、社員の「仕事をやる気」の バロメーターであるみたいな雰囲気まで出て来たのでした。そして、上記の 現場経験の全く無い人が新しい社長になって、海外への事業展開がますます加速 しているようでした。

あちらこちらの外国にどんどん事業が展開されているようです。私は若い頃、 日本企業が海外進出をするに当たって実施しているフィージビリティ・スタディ (feasibility study)に関する実証研究の本を読んだことがありました。その本は 次の本です。

グローバリズムと日本企業、組織としての多国籍企業  
 洞口治夫著  2002年1月18日初版 東京大学出版会

この本の第2章にフィージビリティ・スタディの実証研究のことが書いてあるので した。フィージビリティ・スタディとは、企業が新しい事業に進出するに当たって、 前もって新しい事業の収益性などを調査することです。日本語に直訳すると 「実行可能性調査」となります。

(次頁に続きます)

グローバリズムと日本企業―組織としての多国籍企業

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