借上げ社宅という住まい(2)
(前頁より続く)私は何度目かの転勤先で前任者の借上げ社宅を引き継いで住んでいま した。そこに、大きな台風が来たのでした。借上げ社宅は大きく揺れて、 いまにも壊れそうでした。
怖くなって、やむを得ずに近所にあった大家さんの家に避難させても らいました。大家さんの家は全く揺れていないのでした。そして、台風 が過ぎ去って借上げ社宅に戻ってみると、大きな庇(ひさし)が風で落 ちて壊れていました。避難して良かったと思いました。
その後、大家さんは息子さんと2人で、その庇を元に戻して修繕しまし た。しかし、素人の大家さん達が修繕しましたので、庇を家屋に打ち付 けた釘が少しずつ抜けてくるのです。夜、静かになって寝ていると 「ギシッ、ギシッ」と明らかに釘が少しずつ抜けてくる音が聞こえて くるのです。
( 大家の理不尽な言葉に怒りで一杯になる )
私は、大家さんに状況を話して、専門の工事屋さんに修繕してもらう ように依頼しました。その時の大家の返事は耳を疑うものでした。 大家は、「もし、庇が落ちて下にいた人に被害があったら、金を 出しますよ。」と言ったのです。
とても人の言葉とは思えません。私は、「専門の工事屋さんに修繕して もらうのがいやならば、この庇を自分ではずして片付けなさい。」と 言いました。
その時の私の表情は、あまりの理不尽な大家の言葉に怒りで一杯になり 鬼のような恐ろしい表情になっていたと思います。今から40年も前の ことですが、こうして書いていると、その時の怒りをありありと思い 出すほどです。
私のすさまじい怒りに押されて、その大家は、その危険な庇を取り外 して片付けたのでした。
それから、私は、このような粗悪な貸家ではだめだなと思って、会社 の借上げ社宅担当の人に事情を話して、借上げ社宅をもっと良いところ に変わりたいとお願いをしました。会社が出す家賃の上限額を超える分 は自分で出しますと申し出ました。家賃の上限額は規定で明示されて いるわけではなくて、借上げ社宅の担当部署が、その地域毎に決めて いるのでした。
しかし、その程度のことでは、借上げ社宅の変更そのものが認められな い、という返事でした。
( 粗悪な借上げ社宅から脱出するため、小さな家を買う )
その頃、私も少し貯金ができていました。しばらく転勤も無さそうだし、 この状況を脱するには自分で家を買うしかないのかなと考えました。 以前に先輩社員から「この会社では、社員が家を買うと必ず転勤させら れるんだよ。」と聞かされていたのが気にはなりました。
確かに先輩社員たちは転勤を繰り返す中で、ある一定の年齢になって 自分の家を買うと、程(ほど)なく転勤の辞令が出て、後(あと)は 家族をそこに置いて自分は定年まで単身で各地を転々としていくので した。
先輩社員の話が気になりましたが、やむを得ません。私は、貯金と 住宅ローンで小さな家を買ったのです。こうして、粗悪な貸家から何とか 脱出したのですが、先輩社員から忠告された通り、その後1年で転勤に なったのでした。
小さな家でしたが、築1年のこの家を私は地元の不動産屋さんに売却を 頼んで、新しい勤務地に赴任しました。そして、また借上げ社宅です。
新しい勤務地に行って再びトラブルが待っていました。そのトラブルは、 私はもうこの会社をあきらめて転職を考えるようになる原因の1つで した。その話は次回に書くことにいたします。
(次頁へ続く)