借上げ社宅という住まい(1)
私は、転勤のある社員として会社に就職すると、借上げ社宅に入居すること になりました。借上げ社宅とは、会社が民間のアパートや貸家を借上げて 社員に割安な社宅料で住まわせるのです。
地方から東京に出てきて、住む所に苦労していた私は、ありがたいと思い ました。早速、借上げ社宅の管理を担当していた管財課に行きましたら、 2つの物件を指定されて、自分で見てきて、どちらかを選びなさい、という ことでした。
私は、まず会社から近い方(ほう)を見に行きました。とても古いのでした。 一体、築何年なのだろうと思うぐらい古いのでした。室内も見るからに 不衛生です。そして、入り口のドアの鍵は、とても簡単なもので外から少し 力を入れて引っ張ったら、簡単に壊れて外(はず)れてしまいそうでした。 ガッカリしました。
そして、2件目を見に行きました。2件目は1件目よりは新しいのでした。 しかし、北と西を向いた部屋でした。6畳1間のアパートです。それでも、 1件目のあまりのひどさにガッカリしていた私は2件目の方(ほう)を選び ました。
日が当たりませんので、冬はとても寒いのです。そして、夏は西日のため、 とても暑いのです。私は、上京してから、店舗の2階のウナギの寝床の ような部屋など、劣悪な居住環境に住まざるを得ませんでした。そのため、 会社に就職して、上場企業の借上げ社宅に住めるということで、とても期待 していただけに、ガッカリ感が大きいのでした。
( 午後の西日に照らされた夏のアパートは辛(つら)かった )
入社して1年ぐらいした頃、配属された会計課の先輩社員に雑談の中で 「会社から支給された借上げ社宅は夏は西日で暑く、冬は北風が窓に吹いて きて、とても寒くて大変です。」という話をしたところ、「日中は朝から晩 まで会社で仕事をしていて、借上げ社宅は夜、寝るだけだから問題ないだ ろう。」と言われました。
夏に会社から帰って、午後の西日に照らされて蒸し風呂のように暑くなって いる6畳1間のアパートの辛(つら)さは、体験者でないと分からないので した。
管財課は階下のフロアにありました。髪の毛をピタッと七三分けして、 神経質に手で髪の分け目を触って確認するのが癖になっている借上げ社宅の 担当者を見ると、もっと良い物件を紹介して欲しかったな、と思いました。
その頃は、まだエアコンは普及していませんでした。私は、夏の暑さ対策に 扇風機を買ってきました。夏、布団の足下(あしもと)の方(ほう)に 扇風機を置いて扇風機の風に吹かれながら寝たときの気持ちよさは忘れる ことができません。
エアコンが普及して、扇風機をあまり使わなくなっても、私はその扇風機が 大切に思えて、なかなか捨てられませんでした。その扇風機を捨てたのは、 古くなった扇風機を使うと出火したりして危険ですという話を聞いてから でした。
そして、ずっと後(あと)に知ったのですが、ごく少数の方(かた)ですが、 世間知(せけんち)のある要領の良い人は、自分の気に入った物件を見つけて、 会社と交渉して借上げ社宅の上限の家賃まで会社に出してもらい、会社が 出してくれる金額を超える分は自分で負担するという方法を取っていたの でした。
残念なことに、世間知の無い私は、そのような気の利(き)いた良い方法を とることができませんでした。
転勤の辞令が出たら、規定によって2週間以内に赴任しなければならないの です。その後、何度も転勤しましたが、限られた時間では引越しや仕事の 引継ぎなどで忙しく、自分の気に入った物件を見つけて、会社と交渉すると いう上記のような気の利いた良い方法を取ることは私にはできないのでした。
( その頃は、住宅の需要はとても多かった )
その頃の住宅状況は、今とは真逆で、住宅の需要はとても多く、供給は少な いのでした。従って、貸し主は強気でした。良い物件そのものが少ないのです。 借上げ社宅という住まいで、良い物件を見つけるのは、とても難しいのでした。 大体は、前任者が住んでいた借上げ社宅にそのまま住まざるを得ないのです。
現在は、住宅の需給が以前とは逆の状況になり、人口の減少のために空き家が 増えて社会的に大きく問題化しています。転勤のために、借上げ社宅を住まい にしている方(かた)は、以前よりは少しは良い状況になっているのではないだろうか と思います。
但し、貸家は量的には良くなっていると思いますが、質的にはあまり改善さ れてはいないように思われます。
ところで、私は何度目かの転勤先の借上げ社宅で、とんでもない状況になって しまいました。それは次回に書きたいと思います。
(了)