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対米戦争(太平洋戦争)に負けた原因を考える(3)
こうして日本が自滅の敗戦をして、学校勉強が優等生なだけの無能な エリート軍人を多数作り続けた海軍兵学校と陸軍士官学校は無くなった のでした。山本も南雲も、不本意な終り方であったでしょう。 山口多聞第二航空 戦隊司令官のような天才的な人もせっかくの力を 発揮できずに戦死してしまいました。何とも無念としか言いようが ありません。
対米戦争(太平洋戦争)を知れば知るほど「自滅の敗戦」であった 思いが強くなって悲しみで一杯になります。
学校時代に物覚えが良くて試験の成績が良い人を宗教の信仰のように、 一生の間いつまでも厚く信頼することから来る弊害は、近現代の日本 に取り憑いた重い精神の病気です。明治維新後、欧米に追いついた 時点で治るべき病気でしたが、戦後も、この病気はそのまま日本社会 に蔓延しています。
( 消えてしまった日本長期信用銀行 )
もう随分前ですが、かって日本長期信用銀行という超有名銀行があり ました。そこの取締役調査部長が本を出して結構売れました。確か 「柔構造の日本経済」という題名でした。随分話題になりましたので、 私も買って読みました。
著者は東大経済学部の出身で、大学在学中はマルクス「共産党宣言」を 暗記するほどに繰返し読んだというのです。理由は、当時東大経済学部 では共産党宣言を読むのが流行していたからというのです。
私は「共産党宣言」を繰返し暗記するほどに読んでどうするんだと思い ました。正直、あんなものを暗記してどうするんだ、少し馬鹿っぽいと 思いました。
しかし、本人は大まじめに大学生時代に「共産党宣言」を繰返し読んで 暗記したことを自慢するのでした。そして、日常の地味な銀行業務を 頭から馬鹿にしていました。
それから程なく金融自由化の波がやってきました。そして、 「共産党宣言」暗記自慢の取締役調査部長を重用していた 日本長期信用銀行は、抵抗する間もなく、あっという間に金融自由化の 波に飲まれてこの世から跡形もなく消えたのです。
東大経済学部出身、在学中「共産党宣言」暗記自慢の取締役調査部長は、 当然のことですが、金融自由化の波に何の役にも立たなかったのです。 太平洋という戦場で戦いに対応できない海軍兵学校卒のエリート軍人に そっくりでした。
対米戦争(太平洋戦争)に負けて海軍兵学校と陸軍士官学校は無くなり ました。しかし、東大は残りました。この場合、理科系の学部や文学部 などは何の問題もありません。大いに活躍してほしいものです。
( エリート官僚養成学校 )
問題は法学部と経済学部です。この二つの学部は学問の場ではありませ ん。この二つの学部はエリート官僚養成学校です。かっては世界的な 法学者田中耕太郎先生を生んだ法学部も今は単なるエリート官僚養成学校 に変質したのです。
アメリカとの戦争に負けた時、憲法学の宮沢俊義教授は一夜にして 自主憲法制定から米軍作成憲法支持に変わりました。こういうことは、 学問の場からエリート官僚養成学校に変質したからできるのです。
経済学部も国民の税金を沢山つぎ込んでいますがノーベル経済学賞を 生むようなことはありません。そして、海軍兵学校と陸軍士官学校で 養成されたエリート軍人達の失敗を、東大法学部経済学部で養成された エリート官僚達が今は経済に対して失敗中です。
失敗の構造がそっくりです。私は、東大法学部経済学部で会計を教えて いる先生が、授業のために、ご自分で書いたテキストの本を読んだこと があります。「企業会計 斎藤静樹 東京大学出版会 1993年11月25日 第6刷」です。
斎藤東京大学経済学部教授はご自分の専門である簿記会計に知的関心を 示さない、エリート意識で舞い上がってしまった東大法学部経済学部の 学生を相手に何とかしようと努力します。
そして、簿記会計の理論も歴史も実務も無視して、簿記会計を 数理経済学のように装った教科書を作ります。ご自分の専門を学生に 学ぶ気にさせようという、教育者としてのやむにやまれぬご努力なので しょう。
この斎藤先生のご努力を「素晴らしい」と見るか、「空しい」と見るかは、 見る人によって分れるでしょう。斎藤先生ご自身は武蔵大学経済学部の ご出身なので、大学生の時に簿記会計の教育を受けられて、簿記会計の 技術理論を身につけられておられます。
しかし、斎藤先生の数理経済学の装いの簿記会計の講義を聞いた 東大法学部経済学部の学生にとって、簿記会計はチンプンカンプンの世界 です。
これでは、東大法学部経済学部を卒業して財務省官僚になった人は、 日本政府の貸借対照表を見ても何のことか分かりません。日本政府の 貸借対照表を理解するには日商簿記3級の勉強をしなければなりません。 しかし、既に超エリート官僚になった人には日商簿記3級の勉強は気持ち の上で無理です。
かっての東大法学部はこうではありませんでした。私は50代の頃、 「商法学 特殊問題 下 (田中耕太郎著作集10)1958年6月 20日 第1刷発行(春秋社) 1998年4月30日 復刻版(追補) 第1刷発行 新青出版」 を買いました。そして、この著作集に納められ た「貸借対照表法の論理」を読んだのです。
田中耕太郎先生は、真正面から簿記会計に取組み、理論、歴史、実務を 踏まえて貸借対照表法を論じられたのでした。とても難しい本でしたが、 私はこの本で「決算貸借対照表」「税務貸借対照表」といった概念を教え られたのでした。
田中耕太郎先生が教壇で講義をしていた東大法学部経済学部は確かに学問 の場でした。しかし、斎藤静樹先生が数理経済学の装いをした簿記会計を 講義して、学生の知的関心を何とかして刺激しようと努力している 東大法学部経済学部はもはや学問の場ではありません。 エリート官僚養成学校という専門学校になったのです。
( 東大法学部経済学部の変質 )
私は田中耕太郎先生の「貸借対照表法の論理」と斎藤静樹先生の 「企業会計」を読んで、東大法学部経済学部の変質を深く感じ取りました。
こうして斎藤静樹先生の講義を受けて貸借対照表を読めないままの 財務省官僚は日本政府の貸借対照表の中の借入金だけを取出して発表し、 「国民1人当り八百万円の借金がある」などと毎年嘘を言い、だから 消費税増税が必要だと貸借対照表を悪用するのです。
そのような貸借対照表の悪用となると、エリート官僚の頭は回りすぎる ほど回るのです。困ったことです。先の日本長期信用銀行の「共産党宣言」 暗記自慢の取締役調査部長といい、斎藤先生の数理経済学の装いの 簿記会計の講義を聞いた財務省官僚といい、こんなところに国民の多額の 税金が使われていると思うと、なんだかガッカリさせられます。 海軍兵学校、陸軍士官学校の失敗の繰返しです。
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