会社員は精神面においてしっかりと武装する
前回は、会社員はストア哲学で心を鍛えるという話を書いたのでした (2021/5/1会社員は心を鍛えて苦境を乗り越える)。人はストア哲学 によって心を鋼鉄(こうてつ)のように鍛えることができます。
しかし、人間には心の部分とは別に感情の部分があります。どんなに 心を鍛えても毎日の会社の仕事の中で感情が波立つことがあります。 怒り、屈辱、辱め、辛さ、悲しさ、などです。
例えば、自分の責任ではないのに仕事のことで激しく攻撃されれば、 怒りと屈辱の感情が大きく波立ちます。私が勤めていた会社では、 毎朝、朝礼があり社員が交代で3分間話をさせられるのでした。話の 内容は何でもいいのでした。
私は、いわゆる上がり性(あがりしょう)で話が下手なのでした。 前の日に話を考えて一生懸命に話すのですが、「話の内容がおかしい、 話が下手だ」と露骨に笑われることがありました。
上司との面談で、朝礼が下手だと攻撃材料にされることもありました。 やりたくてやっているわけでもないのに、私は、辱めと辛さで一杯に なり、会社から逃げて、そこに穴があったら深く深く入って隠れたい 惨めな気持ちになるのでした。
( 私は法然上人の教えに出会った )
こうして苦しんでいた私は、ある時、古書店で「法然と親鸞の信仰」 という本を 見て買いました。私が生まれ育った家は浄土宗の寺の檀家 でした。
小学生の時は夏休みには、そのお寺に子供達が集まって子供会を開き、 皆で勉強をしたり遊んだりするのでした。そのため、「法然と親鸞の 信仰」という本の題名を見た時、浄土宗の開祖である法然という名に 関心を持ったのです。
この本には、思いもかけず、自分の波立つ感情にどう対応したらいいか というヒントが書いていました。
宗教の悩みを抱えた高野の明遍僧都(こうやのみょうへんそうず)が 法然上人 を訪ねた時のことが書かれていました。高野の明遍僧都は、 法然上人に悩みを打ち明け、相談したのです。その悩み とは、 「 〜 念仏を唱える時、心が散乱し妄念(もうねん)が起って仕方 があり ませんが。」というものでした。
この悩みに対して法然上人は次のように答えます。「どうして妄念 (もうねん)を止める事が出来ましょう。凡夫のわれらの及ぶ事 では ありませぬ。たとい妄念(もうねん)は群(むら)がり起るとも、 それは そのままにして、ただ名号(みょうがう)を唱えれば、 仏の願力(がんりき)で 往生出來ると信じて、唱えるまでであります。」 法然と親鸞の信仰(上)倉田百三 2013年12月9日第35刷発行 講談社(144,145頁)
このお答えによって、高野の明遍僧都の悩みは解決したのでした。会社で 波立ち、ささくれ立つ感情に苦しんでいた私は、法然上人のこのお言葉を、 「人は波立つ感情をコントロールする力を持た ない。だから、感情は動く ままにして、自分の為さねばならぬことをしなさい。」 と受取りました。
( 私は感情の動きをそのままにして仕事に注力した )
高野の明遍僧都の悩みは宗教の悩みでしたが、私の悩みは上がりながら話す 下手な朝礼を笑われ、攻撃されて、穴があったら入りたいという恥ずかしさ と屈辱の感情でした。
私は、そのような時の恥ずかしさと屈辱の感情を何とかしようと藻掻 (もが)いていましたが、上記の法然上人の教えに出会ってからは、藻掻 くことをせずに感情の動くに任せるようになりました。そして、私の為す べき事である仕事に集中して遂行することにエネルギーを向けるように しました。
その結果、私はそれまで以上に仕事ができるようになりました。また、 話は下手なままですが、不思議なことに、上がり性が少しづつ自然に改善 されるのでした。
会社員をしていますと、朝礼以外にも人との色々な接触で感情が波立って ささくれ立つことがあります。仕事が内勤の人であっても外勤の人であって も、人との接触で感情が大きく波立つことがあります。
波立ってささくれ立つ感情はそのままにして、自分の為すべき仕事に エネルギーを集中すること、それが法然上人の教えによる私の悩みに対する 解決法なのでした。
私は生まれつき、いわゆる内向的な性格であり精神的に弱いほうでした。 今、私は自分の内面を考えてみる時、心の面はストア主義のエピクテトスに 鍛えてもらい、感情の面は浄土宗の法然上人に指導していただけたのだと しみじみ思います。
( 私の内面は二段構えに武装された )
いわば、私の内面は長い間にエピクテトスと法然上人によって、激しい 攻撃を繰返してくる外部に対して、自然に二段構えに武装してもらえたの だと思うのです。
会社には色々な人がいて、穏やかで誠実な人もおられましたが、激しく 攻撃的な粗々(あらあら)しい人はいくらもいる厳しい世界でした。
粗々(あらあら)しい人に攻撃されて会社員生活がうまくいかない人の中 には、自分で自分の人生を終わらせてしまう人もいました。私は、大切な 人を失って悲しみ泣く遺族の方を、一度ならず見たことがあります。 決してあってはならないことです。
会社とは、善良で弱い人を情け容赦なく押しつぶしてしまう、剥き出しの 弱肉強食という非情の組織という面を持っています。
大学の経済学部では、資本家と労働者の対立を強調するのでした。大きく 見ると、そのようなこともあるでしょう。しかし、人間社会の常(つね) なのかもしれませんが、実際に会社に入りますと労働者同士(会社員同士) の対立、摩擦が深刻で対応が難しいのでした。
本を通してですが、エピクテトスと法然上人に出会わなければ、私の 会社員生活は藻掻(もが)き苦しんで、その後どんなひどい事になってい たか、想像もできません。
今、こうして窓から明るい初夏の木々の緑を見ながらこの文章を書いて いるようなこともなかったかもしれません。私は、エピクテトスと 法然上人の教えに出会えて本当に幸運なのでした。
私もそうでしたが、学校を終えて会社員になる多くの人は無防備で会社に 入ると思うのです。現在の日本の学校教育には、心を鍛えたり感情への 対応という教育が全く無いからです。
会社員になった方は、エピクテトスと法然上人の教えによって、粗々( あらあら)しい人の激しい攻撃に対して動揺しないで落ち着いて耐えられ るように、心と感情という精神面においてしっかりと武装することを お薦めするものです。
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