女子レスリングのパワハラ報道について
オリンピック女子レスリング4連覇、国民栄誉賞の伊調馨選手が 栄和人監督の妨害によって練習ができなくて困っているということ がテレビのワイドショーで取上げられています。
平昌オリンピックでの日本人選手の活躍に沸いた後だけに衝撃は 大きなものがあります。週刊文春(平成30年3月8日号)の 記事によると、伊調選手と栄監督のトラブルの発端は次のように なっています。
2006年北京オリンピックで伊調馨選手が連続金メダル、姉の 千春選手が連続銀メダルと姉妹で快挙を成し遂げました。その 2ヵ月後の世界選手権に日本テレビは「伊調姉妹が出場するならば 放映権料1億円を日本レスリング協会に支払います。しかし、 伊調姉妹が出場しないならば、放映権料は6千万円です」と申し 出たのです。
この時、伊調姉妹は二人ともケガのため世界選手権欠場を希望し、 栄氏を始め協会幹部は出場するように伊調姉妹を説得しましたが、 結局、伊調姉妹は欠場、協会内部から伊調姉妹への恨み言が聞こ えてくるようになったというのです。姉の千春選手は、その後、 高校教師になって引退したのでした。私は 公益財団法人日本レスリング協会を調べてみました。
( 公益財団法人日本レスリング協会について )
財団法人というのは、一定の目的を持った人がその目的のために 自分の財産を出して作った法人です。そして、財団法人が国に 申請して公益性を認められると公益財団法人ということになります。 公益財団法人は基本的に税金を納めなくてよいし、税法の優遇制度 のおかげで会社等からの寄付を集めやすくなります。
日本レスリング協会の平成28年度決算報告書(平成28年4月1日 〜平成29年3月31日)を見ますと、事業活動収入計は 6億55百万円です。その中で、金額の大きい順に三つ見ますと、 補助金等収入1億68百万円、広告費収入1億40百万円、寄付金収入 95百万円、となっています(金額は百万円未満を切捨てています)。 広告費収入の大きさを考えますと、上記のテレビ放映権料に係わる トラブルのようなこともあるだろうな、と思わされます。 一方、事業活動支出計は5億31百万円、差引き収支差額はプラス1億 23百万円です。
日本レスリング協会の所在地は東京都渋谷区、役員は会長以下全員で 8人です。会長の福田富昭氏は現在、東証一部上場 (株)ドンキホーテホールディングスの社外取締役です。昭和16年生、 現在76歳。日本レスリング協会会長を15年続けています。 世界レスリング連合名誉副会長でもあります。
( 日本レスリング協会副会長、至学館大学学長 谷岡郁子氏について )
そして、3人の副会長の中に谷岡郁子氏がいます。谷岡郁子氏は、 昭和29年生、昭和61年、愛知県の中京女子大学(現 至学館大学)の 学長に就任、その後32年間、学長を務め現在に至ります。谷岡郁子氏は、 大阪商業大学など、いくつもの学校を手広く経営している学校法人 谷岡学園の創立者の一族として生まれました。
学校法人谷岡学園の現在の理事長である谷岡一郎氏は郁子氏の弟であり、 学校法人至学館と学校法人谷岡学園は姉妹法人の関係にあります。 谷岡郁子氏は、関西地区学校経営の輝かしい名門に生まれた方(かた) なのです。2007年から6年間参議院議員でもありました。
至学館大学はレスリング部が栄監督の下、吉田沙保里、伊調姉妹などの 五輪オリンピックのメダリストを生み女子レスリングの名門大学です。 現在、伊調馨選手へのパワハラで話題になっている栄監督は 日本レスリング協会常務理事 選手強化本部長です。
そして、栄氏は至学館大学レスリング部監督、そして至学館大学教授でもあり ます。五輪金メダリスト吉田沙保里は至学館大学副学長です。
( 日本レスリング協会と至学館大学は濃密な関係にある )
こうして書いてきますと、女子レスリングについては日本レスリング協会 と至学館大学は実に濃密な関係です。スポーツには色々な種類がありますが、 そのスポーツの協会と地方の比較的小規模な大学がこれほど濃密に繋がって いるスポーツは他には無いと言ってよいでしょう。
この特異な構造のまま、至学館大学レスリング部は何人もの女子レスリング 五輪メダリストを生み、女子レスリングも彼女たちも国民に愛される大きな 存在になりました。
しかし、女子レスリングが国民的な存在となっても、栄氏を始めとして レスリング関係者の意識は何も変わらなかったようです。それは、栄氏の 次の言葉が象徴しています。「〜 なんで俺が一選手に悩まされなきゃいけ ないのか」。今回の騒動のことで栄氏が週刊文春の取材を受けた時の発言 です。 ここで栄氏が「一選手」と言っているのは伊調馨選手のことです。
しかし、伊調馨選手は五輪4連覇、国民栄誉賞に輝く全国的な存在です。 国民的には、もはや決して「一選手」ではないのです。この栄氏の意識と 国民の意識との乖離(かいり)が限界を超えて大きく広がったところに 今回の不幸な騒動の根本原因があると思われるのです。
企業の場合、ある程度の規模を持つ大きな企業は「危機管理の意識」が あります。しかし、今回の女子レスリングの騒動については、 日本レスリング協会にも至学館大学にも「危機管理の意識」を全く感じる ことができません。
このまま騒動が続けば、伊調馨選手の輝かしい選手生命が不幸な形で終わっ てしまうことも考えられます。そうなった場合、女子レスリングのイメージは 極端に悪化するでしょう。
( 日本レスリング協会と至学館大学は改革が急がれる )
日本レスリング協会や至学館大学が、国民的なスポーツとなった 女子レスリングに相応(ふさわ)しい組織に早く脱皮できなかったことが 悔やまれます。このままでは、日本レスリング協会や至学館大学は、大きな 取返しのつかないダメージを受けることでしょう。企業も、これまでの ようには協賛支援をしづらくなると思います。
日本レスリング協会と至学館大学は、女子レスリングが国民から注目される 大きな存在となったことを強く自覚し、できるだけ早く自発的に組織を改革し、 選手が納得のいく練習を十分にできて国民が気持ちよく応援できる風通しの よい環境を作ってほしいものです。
(了)(追記)
上記の報道があってから約5カ月経った平成30年8月10日、日本レスリング 協会の会長福田富昭氏が上記のパワハラについて伊調馨選手に正式に謝罪した ことが報道されました。