(2024/7/1)

会計実務の物語(4)会計学A

会計公準Bは「貨幣的評価の公準」です。「貨幣的評価の公準とは、 企業はその経済活動を貨幣単位で記録・計算・表示するとする前提で ある。」と書いています。

日本であれば、貨幣単位は円です。この公準は、貨幣価値の変動への 対応であるとか、学者は理論的に色々あるようですが、会計実務では特に 意識するようなことはありませんでした。

会計理論は、上記三つの公準を出発点としての構築されます。その中 でも、A継続企業の公準が会計実務では大切です。期間損益計算と いう概念が継続企業の公準から導き出されるからです。そのため、 継続企業の公準は別名「会計期間の公準」とも言われるのでした。

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会計基準の話に移りましょう。会計基準は、「公務員試験 過去問 攻略Vテキスト15 「会計学」2019/12/15初版第1刷発行 TAC出版」の 10頁に、「慣習・規範 (企業会計原則等の会計基準)」と位置づ けられています。

会計基準として、戦後初めて、昭和24年に企業会計原則が設定され ました。戦後の会計学は、この企業会計原則の解釈をめぐって展開 されてきました。

企業会計原則の一般原則の規定と解説が、「公務員試験 過去問攻略 Vテキスト15 「会計学」2019/12/15初版第1刷発行 TAC出版」 26〜39頁に書かれています。

私は、初めて企業会計原則の最初に書かれている一般原則を読んだとき、 何を言っているのか全然分らないのでした。解説書を読んでも、分か らないのです。私は企業会計原則一般原則が分からないまま会計実務 をやってきました。私だけではなく、上司や同僚も分からないまま 会計実務をやっていました。会計実務の場では企業会計原則一般原則が 話題になることはありませんでした。

私が企業会計原則一般原則について、そういうことかと本当に分かった のは、企業会計原則一般原則が作られた過程を知ってからでした。

私は、インターネットで、論文「諸井勝之助 企業会計制度対策調査会 と会計基準法構想」を読んだのです。諸井勝之助は、 1924年生  東京大学経済学部商業学科卒 東大教授 定年後 新潟大教授  青山学院大教授 を歴任しています。「経営財務講義」などの業績が あります。

上記の論文の概要を次に書きます。(私の感想も書込みます。)

企業会計原則は3人の会計学者が中心になって作成された のでした。 上野道輔東大教授(61歳)、岩田巌一橋大教授(44歳)、黒澤清 横浜国大教授(34歳)、の3人の会計学者の方(かた)です。( )内 の年齢は 企業会計原則が公表された時の年齢です。

そして、企業会計原則の冒頭に置かれる一般原則を提案するための たたき台を作る のは黒澤清教授の役割とされたのです。上記のように 年齢が一番若いというのが 理由でしょう。上野道輔教授は会計学の 長老、大家(たいか)であり、岩田巌教授 は天才肌の会計学者だった ようです。

そして、黒澤教授が一般原則のたたき台を作る資料として事前に 上野教授と岩田教授 から若い黒澤教授にそれぞれメモを渡されたのでし た。それぞれのメモは次のような ものでありました。

 (上野メモ)

  第一 真実性の原則
  第二 正規の簿記の原則

 (岩田メモ)

  disclousre の原則
  consistency の原則
  materiality の原則

  disclousrは明瞭性、consistencyは継続性、materialityは
  重要性、とするのが適当であろう。

上記の2つのメモを渡された黒澤教授は苦悩されたことでありましょう。 上野メモと 岩田メモに会計哲学の差異を感じ取ったからです。しかし、 上野教授と岩田教授の 両方の顔が立つように、また、日本は当時、 占領軍 GHQ の支配下にありましたから、 占領軍 GHQ の目も意識しなが ら、黒澤教授は何としてもこの2つのメモを使って 一般原則のたたき台 を作らなければなりません。

上野教授はドイツ会計学の影響を受けて研究をしました。一方、岩田教授 は上記の メモを見る限りアメリカ会計学の影響を強く感じます。そして 、黒澤教授は語ります。

「〜 しだいに私は、ここにいわゆる会計哲学の差異は、けっして絶対に 結合不可能な 対立的なものではないと考えるにいたった。私は、一方を 日本経済の再建復興の基礎を 提供するための真実性の哲学と名づけ、 他方を資本市場の近代化を目指す開示の哲学と 呼ぶことにした。ー中略ー ともあれ私は、この会計思想を参酌しながら、会計の 一般原則に関する 黒澤メモをつくって、対策調査会に提出した。〜 」

そして、この黒澤メモがたたき台になって、議論を経て、最終的には 企業会計原則の 一般原則は7つの原則になったのでした。

上記の黒澤教授が語る部分で注目するのは 「けっして絶対に結合不可能 な対立的なものではないと考えるにいたった」という部分 です。つまり 本来は、「絶対に結合不可能な対立的なもの」を色々と考えて結合したと いうわけです。

そして更に、黒澤教授は「開示の哲学」と捉えた岩田メモの「materiality (重要性) の原則」を上野メモの「第二 正規の簿記の原則」に含蓄させ ることによって、その 意味転換を試みたというのです。確かに 、企業会計原則の一般原則 の 正規の簿記の 原則には (註1)として 「重要性の原則」が付いています。

それから、黒澤教授はアメリカの会計原則から「資本と利益の区別の原則」 を取り入れ、 更に「保守主義の原則」「単一性の原則」を加えて最終的 には企業会計原則の一般原則を 7つの原則にしたのです。

「保守主義の原則」はイギリス会計学の思想から取られたと 言われます。 つまり、企業会計原則の一般原則は、ドイツ会計学、アメリカ会計学、 イギリス会計学などが混じり合っているわけです。

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企業会計原則の一般原則の解釈が難しくなるはずです。その辺(あた) りの事を考えて でしょうか、有名な国家試験テキストのロングセラー 「財務会計講義 桜井久勝 第12版 」では、59頁から66頁までと、 あまりスペースを取らずにあっさりと、企業会計原則の一般原則を説明 して います。

著者 桜井久勝は上記の企業会計原則一般原則成立の過程を熟知している ため、統一的な理解は難しいと考えて、こだわらずに、あっさりと 企業会計原則一般原則を紹介する感じで記述したのかもしれません。

その辺(あた)りが受験生の役に立って、国家試験テキストの、驚く べき超ロングセラーになった要因かもしれません。企業会計原則の一般原則は、 ドイツ会計学、アメリカ会計学、イギリス会計学などの混ぜものである、 ということをよく知って、著者桜井久勝は統一的な理解にこだわらずに記述 したのです。

そのあたりの事情が、私は後期高齢者の歳まで生きて、やっと、想像できる ようになったのでした。「本を読む」ということは難しいことなのです。

(了)