(2024/5/1)

会計実務の物語(1)ソロバン

私は、今から約50年前、学校を終えてある会社に就職し、東京駅 八重洲口の本社会計課に配属 されました。入社すると、会社から ソロバンを支給されました。

その部に は会計課以外にも課があって部全体では20人ぐらいの部署 で した。その20人ぐらいの部署に1台の大きな電卓がありました。 今の大きなデスクトップのパソコンを横置きにしたような感じ です。

足し算、引き算はソロバンでやりましたが、掛け算、 割り算をする時 は、私もそうですが、ほとんどの方(かた)がソロバンで はできないの で交代でその大きな1台の電卓を使っていました。

そして、日常の書類は手書きでした。伝票や会計帳簿にボール ペンで 記入して、ソロバンで計算するのでした。パソコンが普及 した今では 考えられないことです。

日本全国に事業所がある企業でしたが、50年ぐらい前の 1970年 代前半の会計課はそんな風景でした。当時は、 多くの企業はそのよう なものだったと思います。

私が勤めた会社の売上げ合計は、桁数が大きいのでした。いわ ゆる 薄利多売の業種でしたので、利益はまあまあなのですが、 売上げ、 売上原価、販売費、など、あらゆる合計金額の桁数が 大きいのでした。

( 大きな桁の数字をソロバンで計算する )

私は、一、十、百、千、、、と位取りしながらソロバンを 使って計算 の仕事をしました。毎月、月が替わって月初に なると前月の月次決算 (げつじけっさん)業務を始めます。

そして、毎月、月の半(なか)ばまで、午後8時、9時、10時、、、 と 残業の日が続くのでした。

大きな金額をソロバンで計算するのは大変な仕事です。 ソロバンは 小学校で習って以来でした。

今は、パソコンが ありますので、借方(かりかた)、貸方(かしかた) の金額が 合わないときは、パソコンが直(す)ぐに教えてくれます。 しかし、当時は借方、貸方の金額が合わないときは、 人の目と手で、 どこが合わないのか、原因を探さなけ ればなりません。

合計金額が三つになってしまった時は困ったものです。 三つの金額の 内、どれが正しいのか、もう 一度ソロバンを 入れるのでした。私は、 このようなことを毎月繰り返して いました。

( ソロバンの無いアメリカでは何で計算しているのだろうか )

ある月、やはり夜遅く残業して、三度目か、四度目の ソロバンを入れ ている時、会計課長が前を歩いて来ました。 課長は、旧制商科大学の 流れをくむ ○橋大学のご出身で、とて も優秀な方(かた)だという ことでした。

そして、ずっと後(あと)のことですが、その頃の○橋大学には ソロバンの授業があったのだ、ということを何かの本を読 んで私は知 ったのでした。

ソロバンで疲れ果てていた私は課長に「アメリカには ソロバンは無い と思いますが、アメリカではどのように して計算しているでしょうか。」 と聞いてみました。今から考えますと、実際の仕事の苦しみの中から出た、 的を射た良い疑問です。

課長は立ち止まり、少し考えてから、「分からないな。 早く計算してくれ。 」と言って、ご自分の席に行ってしま われたのでした。

日本の高度経済成長が終わりかけていて、第一次石油 ショックによる混乱 が目の前に迫っている時でした。

(了)