会計実務の経験(33)ー収益と費用(2)ー
(前頁より続く)そして、続けて前文を読んでいくと「企業会計原則は、企業会計の実務 の中に慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められた ところを要約したものであって、〜」と書かれています。
しかしながら、企業会計原則の具体的な作成過程を調べてみますと、 当時の2人の会計学の大家から渡されたメモを、まだ若かった黒澤清 横浜国大教授がまとめあげて、一般原則を作り上げることから始まり ました。
2人の大家は、1人はドイツ会計学の研究者であり、もう1人は アメリカ会計学の研究者でした。若かった黒澤清横浜国大教授は、この 2人の大家のメモを渡されて苦悩します。そして、苦悩の果てに 「この二つのメモは矛盾してはいない」と悟り、あるいは開き直りま した。
(企業会計原則の作られ方 )
そして、ドイツ会計学の大家のメモとアメリカ会計学の大家のメモに、 イギリス会計学の伝統思考を加え、更にご自分の考えを加えて 企業会計原則の一般原則を作り上げたのです。
こうして、若かった黒澤清横浜国大教授は、この2人の大家の顔を 立てながら、自分の考えも入れて企業会計原則の一般原則を作り上げ たのです。
このように、最初に制定された会計基準である「企業会計原則」 (1949年)は、西欧の色々な国の会計学を黒澤清横浜国大教授が 剛腕でまとめあげたものですから、一度読めば、スッと頭に入ると いうようなものではありません。
しかし、一旦、制度として置かれたからには解釈によって会計の 現実に適応させなければなりません。戦後の日本の会計学は、 企業会計原則を現実の会計に解釈によって適応させる努力なのでし た。
(企業会計原則の解釈、運用 )
そして、多くの人が認める解釈、つまり通説ができて企業会計原則 の解釈、運用は安定したのです。
今から振返りますと、こうした戦後の日本の会計学の背景を何も 知らずに、会社で会計の仕事を始めた私が苦悩するのは当然でした。 しかし、草深い地方から上京して無知であった私も会計実務を経験 しながら会計学の通説を学び、また、商法(現 会社法)や税法を 学んで自信を持って会計実務を遂行できるようになったのでした。
ところが、1990年代に入りますと、会計の世界に異変を感ずる ようになりました。次から次へと矢継ぎ早に新しい会計基準が発表 されて制度化されたのです。
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いくつか例を上げますと、「リース取引に係る会計基準」 (1993年)、「退職給付に係る会計基準」(1998年)、 「金融商品に係る会計基準」(1999年)、などです。
これら以外にも多くの会計基準が発表されて制度化されました。 そして、2000年代に入っても、「固定資産の減損に係る会計基準」 (2002年)を皮切りに次から次へと多くの新しい会計基準が 発表されて制度化されてきました。
このような1990年代以降の多くの新しい会計基準の発表、制度化 の理由としては、「国際会計基準との調和化」「収益費用アプローチ から資産負債アプローチへ」「会計ビッグバン」などが言われました。
(1990年代以降、新しい会計基準が次々と現れる )
こうした会計の異変の理由を探(さぐ)ろうと、私は新しい会計の本 を読んでみました。ある本に、製造業で利益を上げられなくなった 西欧が、企業そのものの売買で儲けるために仕組んだことだ、と書いて いました。
企業の現在価値を企業の会計自身に計算させるということです。こう しますと、いわゆる西欧の禿鷹ファンドは企業の財務諸表を読めば、 その企業をどれだけの価格で買えば儲けられるかが分かるということ です。
いかにも頭のいい西欧が考えそうなことです。説得力のある話でした。 鎖国が終わり明治時代になって、西欧から入ってきた文科系の社会制度 の場合、本家の西欧で新しい風が吹くと分家の日本は本家西欧の 新しい風に吹かれざるを得ないわけです。
会計も西欧が本家で日本は分家ですので、そうなります。そういえば、 日本の企業を代表する重電の超大企業 T社が、アメリカの原子力発電 の会社を超割高で買って、T社の経営は大きく傾いてしまい、存亡の 危機にあるとテレビで放送されています。
このアメリカの原子力発電会社の購入を意志決定した会長は、東大の 大学院まで行って西洋史を勉強したした人です。つまり、財務諸表を 読めない人なのでしょう。これからの経営者は、財務諸表を読める ようでないと務まらないのです。
現代は厳しい時代です。高学歴だけど、財務諸表を読めない人が昔風 のハッタリの当てずっぽうで経営の意志決定をすると会社の命取りに なります。
(次頁に続く)
