(2022/6/1)

憂国の人の会計書を読む(6)

(前頁より続きます)

その結果、繰延税金資産、繰延税金負債などという一般の人には理解 しがたい勘定科目が現れてきて決算書が分かりづらくなったのでした。 税効果会計は、経営者や一般の投資家にとっては決算書が分かりにくく なって迷惑なものです。

税効果会計が役立つのは、企業を売買して儲ける、いわゆる禿鷹 (はげたか)ファンドや監査項目が増えて収入増につながる監査法人 くらいのものです。

著者大畑氏は「税効果会計は企業の業績変動のブレを増幅し、経営者 にプレッシャーを与える」と言います。多くの経営者は、税効果会計 とは何だろうと、よく分からないと思うのです。

私は、会社員時代、経営者に決算書を説明するのにいつも苦労しました。 現在、経理部の人は、繰延税金資産や繰延税金負債で不必要に複雑化 した決算書を経営者に説明するのに一層、苦労していると思います。 気の毒なことです。

三番目は減損会計です。減損会計は収益性の低下した固定資産の 帳簿価額を切下げることを強制する会計処理です。減損会計は、 著者大畑氏によりますと、アメリカの会計処理の導入だというのです。

(アメリカの経営者は怪しい V字回復をやる )

アメリカの経営者は会社を渡り歩く人が多く、赤字企業の再建をまか された経営者は、まず大幅な固定資産の帳簿価額の切下げを実行して 会社を大赤字にします。すると、次の期は減価償却費が激減して、 会社は大幅な黒字になります。そして、経営者は、V字回復を株主に 強調して巨額の報酬を取っていくというのです。あのカルロス・ゴーン のやりかたです。

アメリカでは、この減損会計による怪しいV字回復があまりにも流行 したため、一定の規制をかけるため減損会計の規定が作られたという のです。しかし、日本にはこんな怪しいV字回復をやるような経営者は いません。それなのに、橋本龍太郎の思いつきの日本版ビッグバンで 導入されたのです。

その結果、日本では減損会計が強制されて業績が悪化する企業が増え ました。そして、経営者は会計基準の減損会計による経営悪化を理由 に人員整理のリストラが増えたというのです。リストラされた人は 実に気の毒です。

福沢諭吉が生きていたら橋本龍太郎に「馬鹿者、実状を調べずに アメリカの物まねはやめろ。実学の精神を忘れたか。」と思いっきり 怒ってくれたでしょう。しかし、福沢諭吉はいません。橋本龍太郎の 思いつきのアメリカ物まね減損会計は実行されてしまいました。 そして、慢性のしつこい経済不況に一役買ったのです。

著者大畑氏は、橋本龍太郎の思いつき日本版ビッグバンで導入された 会計基準を見直すことを勧めます。私は若いとき本で読んだのですが、 英米のアングロサクソンは必要に応じ、制度を大胆に見直すことができ ます。しかし、英米のアングロサクソン以外はできないというのです。 日本もなかなかできません。

アングロサクソンは、戦争で拡大した軍隊さえ必要が無くなれば縮小 できるというのです。アングロサクソン以外の民族は、戦争で拡大した 軍隊を縮小できずに、しばしば国がひっくり返ります。アングロサクソン というのは、何とも小憎らしい民族です。

アングロサクソンは、小憎らしい民族ですが怒っていても始まりません。 怒っていては、アングロサクソンの手の平で、いいように転がされて しまいます。日本は生き延びるために、アングロサクソンのやり方を真似 なければなりません。まずい制度は取入れないようにし、一旦取入れても 「これはまずい」と分かったら廃止できる能力を民族として身につけたい ものです。論語にも「誤ったら、修正するのに躊躇するな」と書いてあり ました。

減損会計は、アメリカのアングロサクソンが悪の経営者を押さえる必要 によって作った会計制度です。必要が無くなれば、彼らはいつでも廃止しま す。それどころか、都合が悪くなるとアメリカ人は会計基準を守らないと いう話もあります。会計基準は、その本質は慣習であって法ではありません から、アメリカ人なら、あり得る話です。アメリカ人は会計基準を適切な 経済運営の手段として捉えているのだと思います。会計基準を守らないのは 論外としても、アメリカ人の会計基準の認識は正しい認識です。しかし、 英米のアングロサクソンというのは頭が良すぎて「小憎らしい」というか、 「小」を取って「憎らしい」と言いたくなる民族です。日本人は会計基準を 目的化してしまいます。会計基準を一度導入したら、生真面目に守ります。 しかも利権が絡みついてしまうため、見直しは至難の業です。しかし、 日本人もアングロサクソンを見習って、努力して会計基準を見直さな ければなりません。

減損会計は、上記のように怪しい V字回復を乱発するアメリカの経営者を 規制するために作られたアメリカの会計制度です。日本では必要なかった のです。日本の減損会計は、どう考えても、規制の数を増やして天下りの 利権を得たいエリート官僚と監査項目を増やして監査収入を増やしたい 監査法人の利益が一致して導入された会計制度です。日本にとっては、 減損会計は、とんでもないガラクタの会計制度です。

しかし、ガラクタの会計制度であっても、制度となったからには監査法人 の監査を受けなければならない上場企業は守らなければなりません。上場 企業の会計担当者は減損会計の勉強をしなければなりません。本には、 エリート官僚が考えた減損会計の存在意義をいろいろ書いていると思います。

しかしながら、日本の減損会計は、本来は日本には必要がないのにアメリカ から取入れられたガラクタの会計制度なのだと知っていなければなりません。 そうしませんと、日本の減損会計の理解ができないからです。但し、会社の 会計の現場で、「日本の減損会計は、必要もないのにアメリカから取入れた ガラクタの会計制度だ。」と、口にしてはいけません。本当は、こんな言葉 はあってはいけないのですが、日本には「それを言っちゃ、おしまいよ」と いう、人をやり込めてくる強力な言葉があるからです。

会計実務の勉強を進めると、どうも理解できない制度がよく出てきます。 その場合は、利権を得たいエリート官僚が欧米のどこかの国から取入れた 制度だと考えて、まず間違いありません。

日商簿記3級、2級を過ぎる頃から、そのような会計制度は増えてきます。 会計実務の担当者は忙しいため学者のように制度の由来をいちいち探求して いる時間はありませんので、理解しずらい制度が出てきたら、とりあえず 「利権を得たいエリート官僚が欧米のどこかの国から取入れた制度」と考え て、実務をこなしていけば大丈夫なのです。そうした制度の由来は、実務を こなしながら、会計の本を読んでいるうちに、あるとき分かります。

利権を得たいエリート官僚が欧米のどこかの国から取入れた会計制度を解説 した本には、よく「趣旨」という題名で制度のことが書いているのでした。 もちろん、「自分たちが利権を得たいので、欧米の○○という国から取入れ た制度です。」と本当のことが書かれているわけがありません。なにやら、 ムニャムニャと官僚苦心の建前が書かれているのでした。

草深い地方の農家出身で、東京の上場企業の会計課に新入社員として配属 された私は、会計制度の本を読んでよく分からないところを諸先輩に尋ねた ものです。しかし、諸先輩も由来を知っていても、まさか会計の現場で「 それは、官僚たちが利権を得たいので、欧米の○○という国から取入れた 制度だよ」と答えるわけにはいきません。問題発言になってしまいます。 地方出身で都会の世間を知らなかった私は、今から思うと、会社の諸先輩に 随分と迷惑をかけたのでした。誠に申し訳ありません。

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