会計実務の経験(14)ー有価証券(1)ー
今日は有価証券です。私の会社員時代、簿記会計の処理で最も大きく 変わったのは有価証券です。
その原因は金融経済が以前よりもずっと大きくなったからです。私は 経済学部で金融経済は実物経済をうまく回すためにある、と習いました。
しかしながら、日本の金融統計を見ると、1995年当時はGDP (おおまかに言うと経済の大きさです)とマネーストックM2(おおまかに 言うと日本中の現預金合計です)が600兆円弱でほぼ同額でした。
しかし、その後、GDPはずーと横ばいなのにマネーストックM2は どんどん増えて25年後の2020年には1000兆円強になりました。 マネーストックM2はGDPの約2倍になったわけです。
私が大学で習った経済学では、この状況では物価は2倍、つまり インフレーションになったはずです。ところが、インフレーションには なりませんでした。従来の経済学では、説明できない状況になったのです。
このGDPとマネーストックM2のデータは、「第7版 投資家のための金融 マーケット予測ハンドブック 2020年3月25日第1刷発行 三井住友信託銀行マーケット事業」125頁のグラフを参照しました。
(金融経済が膨張して実物経済を振り回す )
こうした状況の中で金融経済は実物経済から離れて、まるで台風のよう に実物経済を振り回すような感じになったのです。このような状況の中で、 証券会社の勢いは猛烈に強くなり、事業会社で働いていた私などは、 電話の向こうの証券会社社員の強気に辟易(へきえき)するほどでした。
この金融経済の膨張が簿記会計の株式の期末評価に影響してきました。 以前は株式も他の資産と同じように基本的には取得価額で評価されていま した。ところが、金融経済膨張の風が事業会社にも吹いてきたのです。
私が勤めていた会社は、以前からのいきさつで少し株式を持っていた だけですので、株価が乱高下しても会社の財政状態にほとんど何の影響も なかったのですが、上場会社でしたので、会計基準の新設、変更に従わな ければなりませんでした。
上場会社は、監査法人(公認会計士の集まり)の監査を受けなければなり ませんので、監査に使われる会計基準が新設されたり改正されたりすると、 対応に忙しいのでした。
(新しい会計基準が矢継ぎ早に制定される )
今、手許にある会計法規集(新版 会計法規集第4版 2011年9月 10日発行 中央経済社 )の目次を見ると、次々と出される会計基準が ズラーと並んでいます。これらの会計基準は、経済誌などに出てくるように なったIFRS(イファーズ、国際会計基準)に影響されて矢継ぎ早に制定され るのでした。
監査業界は、監査項目が増えると収入が増えるので、IFRSを積極的に受入 れて、IFRSに基づく会計基準を次々に作るという噂を聞いたことがあります。 あくまで噂ですが、業界によって色々な事情があるものです。
上記の会計基準の一つに「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準 第10号)があります。[平成11年1月22日 企業会計審議会 最終改正 平成20年3月10日 企業会計基準委員会]となっています。
この「金融商品に関する会計基準」に、これからは有価証券は四つに区分し なさい、と書かれています。
「検定簿記講義/2級商業簿記[平成30年度版]中央経済社」27頁に出て います。1,売買目的有価証券、2,満期保有目的有価証券、 3,子会社株式および関連会社株式、4,その他有価証券、の四つです。
日商簿記2級は、何かあるのかどうか、その目的は定かではありませ んが、じりじりと、新しく制定される会計基準を取込んできているように 思われます。
私が勤務していた会社の株式は、4,その他有価証券に分類されました。 4,その他有価証券は、毎期末、新聞で時価を調べて時価に評価替えしなけ ればならなくなりました。
そして、取得価額よりも時価が上回っていた場合は、差額について次の仕訳 をしました。下回っていた場合は、逆の仕訳になります。
(借)その他有価証券××(貸)その他有価証券評価差額金××
この貸方科目である聞き慣れない「その他有価証券評価差額金」という 勘定科目は純資産だというのです。そして、翌期首には振り戻して元に戻す のです。
どうして、こんな損益的には意味の無いことを毎期やらなければいけないの だろうと思いながら期末処理の一つとして繰返していました。
(有価証券の評価問題を学ぶ )
そして、私は、ある時、IFRS(国際会計基準)の影響を受けて変化し ていく日本の会計の問題を理論的な面から教えてくれる本を読むことができ ました。
「時価会計の基本問題 ー金融・証券経済の会計ー 石川純治 平成12年 3月31日 初版発行 中央経済社」です。
著者石川純治は言います。「わが国の「企業会計原則」では貸借対照表原則 5のA(棚卸資産の評価)とB(有価証券の評価)とは基本的に全く同じ扱い である。ー中略ーこれが問題なのである。」287頁
そして、著者は棚卸資産の評価と有価証券の評価とは異なる方法で扱わなけ ればならないと結論づけるのです。著者は、単にIFRS(国際会計基準)が来たから というのではなく、上記の金融経済の膨張ということを背景に考えているわけです。
なるほど、上記の私が、どうして、こんな意味の無いことを毎期やらなければ いけないのだろう、面倒だなと思いながら期末処理の一つとして繰返していた 「その他有価証券の期末処理」は、IFRS(国際会計基準)からの影響を受けな がらの、こうした議論から導き出されていたのでした。
著者石川純治駒澤大学経済学部教授は、驚くべき叙述力を持っており、 IFRS(国際会計基準)の影響を受けながら変化していく日本の会計を捉えて 叙述していきます。
私は、上記の「時価会計の基本問題 ー金融・証券経済の会計ー 石川純治 平成12年3月31日 初版発行 中央経済社」から4年後に同じ著者に よって出版された「揺れる現代会計ーハイブリッド構造とその矛盾ー 石川純治 2014年8月20日 第1版第1刷発行 日本評論社」を読み ました。
この本は全体で226頁という比較的小型の本ですが、現在、IFRS (国際会計基準)の影響、金融経済の膨張ということを背景に、日本の会計の 歴史、理論、制度を踏まえて変化していく現代会計の全体像を教えてくれるの でした。
(次頁に続く)
新品価格 | ![]() |
新品価格 | ![]() |

