会計実務の経験(13)ー受取手形と支払手形(2止)ー
(前頁より続きます)(収納の人は激しく反撃した )
それから、2,3カ月した頃、「事件」が起きました。課全員で会議を していたときです。新しい課長が、収納担当の人に「営業所を回るのは 2カ月に1度でいいのではないかね。」と言ったのです。新しい課長は、 収納担当の人が一つの営業所の町に、なじみの店の女性がいて出張手当 で会いに行くのを楽しみにしているという噂を聞いたのかもしれません。
しかし、収納担当の人は、すぐに机を叩きながら激しく逆襲しました。 「収納は要(い)らん、と言うのですな。」と、語気強く言ったのです。 新しい課長は、その語気に驚き、収納担当の人以外の他の課員に「会議 はこれで終りだ。皆は席に帰ってくれ。」と言って2人だけで話しをした のです。
その後、収納担当の人はこれまで通り月1回営業所を回っていました。 東京の有名なキリスト教系の大学の出身で育ちの良い課長と工場から 来た収納担当が真っ向からぶつかりあうと、工場から来た収納担当の 一方的な勝ちになるのでした。
(社内には粗暴な人もいた )
食品メーカーでしたので、テレビでは、いかにもやさしげな広告が流れ ますが、会社の中は粗暴な言動をする人もいて、意外にも荒々しいので した。
私は、農家の出身で農業の手伝いをすることがよくありました。いわば、 食品産業の源流で生まれ育ったわけです。農業は力仕事が多く辛い部分 は多いのですが、場所が農村ということもあり荒々しさはありませんで した。
出身が農家ということで、学校を終えると食品メーカーに親しみを感じ て食品メーカーに就職したのでした。ところが、そこは食品産業の源流 である農村出身の私からすると異世界でした。
大都会の本社に入ったこともあって、そこは都会育ちの社員ばかりでし た。彼らは、当然のことですが、田んぼや畑に入ったこともなく、家畜を 育てたり世話したこともないのでした。
食べ物を作るに当たっての原料の選択をはじめとして発想の何もかもが 食品産業の源流である農村出身の私とはまるで違うのでした。私は 違和感を持ちましたが、周りの人たちも食品産業の源流である農村から 東京にやって来た私に違和感を持ったと思います。
幸か不幸か、私は経済学部出身ということで本社会計課に配属されて、 直接の製造から距離がありましたので勤務を続けることができたのでした。
(会社とは相性が大事だ )
あるとき、会議で広報担当の人の話を聞くことがありました。広報担当 の人は言いました。「この食材を20の要素に分けて各々の商品を作り 摂取すると健康に良いのです。」
経済学部で企業は何をするかを習った私は、「なるほど、都会育ちで頭 の良さそうなこの人は、食材に付加価値をつけて販売すれば利益を得る ことができる、ということを言っているのだな。」ということはよく 分かりました。
しかし、田んぼや畑に入り、家畜を育てたり世話しながら育った私には、 「この食材を20の要素に分けたりする手間をかけずに、食材をその まま料理して食べたほうが健康に良いのだよ。」という言葉が聞こえて きてしまうのです。
企業の立場に立てば、広報担当の人の考えは正しいのです。田んぼや畑 に入り、家畜を育てたり世話しながら育った私の立場に立てば、私の心 の奥底から聞こえてくる言葉が正しいのです。どちらも正しいのです。 考え方感じ方の観点が異なるだけでした。
私はこうした矛盾を抱えながら30代後半まで勤務してから転職しまし た。当時は今よりも転職は大きな一大決心が必要でした。退職の挨拶を するときは、15年半も勤めた会社を離れるということで虚脱感のような悲 しさを感じたのを覚えています。会社に愛着がありました。食品への親し みから就職したのは、甘かったのです。
経済学部で資本主義経済の中で企業が生きることの厳しさを教えられて 分かっていた積りでしたが、頭で分かっただけで、体で分かるところまで は理解していなかったのです。私は、転職するとき食品から離れたいと思 いました。しかし、30代後半まで食品業界に勤務すると食品業界以外 への転職は難しく、結局、食品の卸売業、小売業の両方をやっている会社 に転職しました。食品産業のより下流に来たわけです。
その会社は、健康を前面に押し出すことはありませんでしたので、私は あまり矛盾を感じることがなく、定年まで勤めることができたのでした。
今から考えますと、田んぼや畑に入り、家畜を育てたり世話しながら育 った私にとって食品メーカーは、農村時代の知識や体験が、逆に妨げにな って、いわゆる相性が悪いのでした。
その食品メーカーは現在も業界の大手として繁栄しています。そのこと は喜ばしいことです。しかし、鉄道の駅などで、この会社の宣伝ポスター が健康を謳(うた)って宣伝しているのを見るとき、若かった時の色々 な体験が思い出されて複雑な気持ちになるのです。
会社によって色々違いがあるでしょうが、食品メーカーに入社しようと する人は、いかにもやさしげな広告のイメージに惑わされずに、今は インターネットもありますので、自分に合う会社かどうか慎重に調べる のがよいです。
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