(2021/1/1)

会計実務の経験(5)ー現金と預金2ー

(前頁より続きます)

当座預金に進みます。私が最初に勤めた会社では、小切手や手形を使って いました。小切手や手形を使うには銀行と契約して銀行に当座預金勘定を 作らなければなりません。

小切手や手形の管理は当然のことですが厳重でした。支払のため小切手を 切るときは、必ず線引き小切手にして、小切手帳に残る部分に支払先などを キチンと記録するのでした。なお、線引き小切手とは小切手に二重線を 引いた小切手です。私は、小切手の左上に引いていました。こうしておくと、 小切手の所有者は自分と取引のある銀行を通さなければ現金化できないなど の制約があるため、盗難などが発生した場合に安全です。

線引き小切手にするための二重線は手書きでも良いのですが、ゴム印を 作成し小切手帳に残る部分に一部かけて押していました。そして、使用済み の小切手帳は金庫に保管し、監査の時は厳格にチェックを受けました。

テキストの69頁に小切手のサンプルが載っています。しかし、左側の 小切手帳に残る部分(耳(ミミ)と言っていました)は載っていません。 会計実務では、このミミの部分も小切手本体と同様に重要でした。

( 私は現預金管理を厳しく指導された)

こうして、私は最初に入った会社で現預金管理について厳しく教育されま した。私は、そのように会社の現場で厳しく教育されたことを感謝していま す。この会社に十数年勤めて転職しましたが、新入社員時代に受けた厳しい 教育が、転職先の会社でも私をずっと支えてくれたことが今から振返って みて、しみじみと分かるからです。厳しい社風ですので(ブラックという 意味ではありません)、この会社は現在も業界の優良企業です。

私は、最初の会社では、手形を扱ったことはありませんでした。手形は 財務部という専門の部署で扱っていたからです。私が手形を扱ったのは転職 してからでした。会社が銀行からお金を借りるために約束手形を振り出した のです。処理の仕方は小切手に準じていました。小切手と違うのは、 一覧払いではなく支払期日があるということでした。

小口現金に進みます。私が小口現金勘定を初めて使ったのは転職してからで した。転職先の会社では、小規模な出先の営業所が多数あって、そこの日常 の経費に使うための資金を送るときに小口現金勘定を使っていたのです。

( 会計実務では用度係はいなかった )

そして、1ヵ月単位で精算していました。テキストに「小口現金を扱う 用度係(小口現金係などともいいます)」という記述があります。74頁  他の簿記書にも、小口現金のところで用度係(ようどがかり)という担当の 人が出てきますが、私は会社で用度係という人を見たことがありません。

よほど昔に会社には用度係という担当の人がいて、今も簿記のテキストに のみ残っているのかもしれません。月初に小口現金を振り込む担当の人は いました。そして、月が変わって翌月の月初になると、各事業所から 小口現金の清算の書類が送られてくるのでした。数が多いものですから、 経理部の皆で手分けして領収書などのチェックをするのでした。

ところで、出先の営業所の入金銀行口座にはその営業所の売上金収入が入金 されました。この売上金収入は、本社の経理部が定期的に本社の銀行口座に 吸い上げるのでした。出先の営業所が、自分のところの売上金収入を自分の 営業所の日常の経費に使うことは許されていませんでした。このように、 日本の会社では売上金収入のお金の流れと経費のお金の流れを 厳格に区別して管理するのが一般的です。

しかし、ある時、アメリカの会社に勤務した経験があるという方(かた) と一緒に仕事をする機会がありました。その方のお話ですと「アメリカの 会社では、出先の営業所で、売上金収入のお金の中から経費のお金に使うの が許されていたよ」というのです。

確かに、このほうが小口現金の管理の手間が少ないでしょう。アメリカの会社 では、そのようなやり方でも間違いが起きないように、現預金の管理の工夫が されているのだと思います。日本とアメリカでは、経理のやり方に違いがある ようです。

( 経理部でもハンコ文化の見直しが必要だ)

ところで、最近、政府のほうで日本のハンコ文化を見直そうという動きがあり ます。日本の会社の経理部にもハンコ文化がガッチリと根をおろしていて、 会計伝票の1枚1枚に経理部長のハンコをもらわないと仕事が進まないのでした。 期末決算に経理部長が出張などで不在ですと決算が遅れて、気を揉んだりした ものです。決算の締め日が決まっていたからです。

新入社員時代に、先輩社員から「上司のハンコをもらうのも仕事の一つだよ」 と厳しく指導されたのでした。しかし、ある時、期末決算の直前に経理部長が 病院に入院して3カ月不在になったことがありました。この時の期末決算は 経理部長のハンコを取るという仕事がありませんでしたので、決算が驚くほど スムーズでした。

ハンコの朱色には「魔を払う」という深い意味があるのだそうです。しかし、 日本の簿記は元々はアメリカから来たものです。アメリカには、ハンコがあり ませんので、経理部長のハンコに代わる何らかの管理の工夫がされているはず です。

会計伝票の1枚1枚について経理部長のハンコの朱色によって「魔を払う」こと も意味あることでしょうが、それ以上に会社の経理は合理性が大切です。そう しませんと、企業はある一定以上の成長ができずに行きずまってしまい成長 できなくなってしまいます。

これでは日本経済は、外国との経済競争に打ち勝ってはいけません。会社が 成長して上場企業ともなったら、経理部のハンコ文化の見直しが必要だと思う のです。ハンコ文化の良い部分は大切に残しつつも、政府のハンコ文化の見直し を機会に、経理部のハンコ文化のあまりに細かすぎて不合理な部分の見直しを して、合理的な経理に成長していって欲しいものです。

日商簿記3級の話に戻りましょう。日商簿記3級は、会計実務と乖離したところ があります。精算表のことは前に書きました。用度係も会計実務の世界には、 どこにもいないのでした。2級、1級になりますと、会計実務と密着してくるため、 3級のように会社の実務と乖離している部分は無くなります。

これは、日商簿記3級は学校における昔の簿記教育の伝統のやり方が、今も色濃く、 そのまま残っているためと思われます。学校の簿記の入門部分のため、一旦定着 したことが会社の実務からの影響を受けることも少なく、学校簿記の独特の世界が 完成して自立し、そのまま引継がれて残っているのでしょう。

これからもこのままでしょうから、会社で実務担当をしている人は、日商簿記3級 は簿記の基本構造を学ぶための、便宜的なものと割り切るのが混乱しなくて得策だ と思います。

(次頁に続く)

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