会計実務の経験(1)ー簿記の発生ー
私は約50年前に学校を終えて、ある会社に就職し会計課に配属され たのでした。大学では複式簿記と企業会計原則を習いました。 複式簿記は日商簿記3級の最初の入口のところだけを習いました。 そして、企業会計原則は収益と利益が反対に記述されているような、 お粗末なテキストで習ったのでした。
その上、当時は多くの大学で学生達が暴れて死傷者まで出る始末で、 私が通う大学も学生達が暴れて休校が多く、落ち着いて勉強できない のでした。
最近、偶然に、当時私が通う大学の経済学部長だった先生の回顧録を インターネットで読んだのです。その先生の回顧録によると、当時は 学生自治会の会費を大学が学生から代理徴収し、自治会に渡していたと いうのです。
その金額は毎年、5千万円ぐらいだったそうです。先生が経済学部長に なった年、学生自治会の役員選挙が適正に行われたのか、確認できない ということで自治会費の引渡しを一旦凍結したというのです。
その結果、先生は学生に殴られてケガをし、学生との交渉に疲れ果てて 病気になり任期途中で経済学部長を辞めざるを得なかったというのです。 誠に気の毒なことです。
大学自治会というのは日本が対米戦争に負けた時に、アメリカから持ち 込まれたものだそうです。アメリカの大学自治会はどのようなものかは 知りませんが、日本ではこのようなものになったのでした。
今は自治会費の代理徴収が無くなったため、毎年の自治会費の金を めぐって学生達が暴れたり、経済学部長が学生に殴られたりすることも 無くなって、休校の連続ばかりということもなくなったようです。 良い時代になったのです。
( 日商簿記3級から始める )
少し横道にそれてしまいました。話を戻しましょう。上記のような状況 でしたので、新入社員で会計課に配属された私は会計の勉強と会計実務 をほとんど同時に始めたようなものでした。こうして泥縄式で右往左往 しながら私の会計実務の勉強と経験が始まったのです。
しかし、私の右往左往の話をそのまま書いても仕方ありませんので、 会計の勉強はこうするといいなというように話を整理して、会計の勉強 を始めるに当たって、ほとんどの人が出発点にする日商簿記3級の テキストから始めます。
「検定簿記講義/3級商業簿記 2017年2月15日 検定 (平成29年度)版発行 中央経済社 」です。(以後、単にテキストと 言います)。
このテキストを読み始めて、すぐ気がつくのは、複式簿記の発生の時の ことが全く何も書いていないことです。 複式簿記は約500年前に イタリアの商人の所で帳簿の記入方法として発生しました。商業の現場 で自然に発生したので誰が発明したとか、そんな話ではないのです。
簿記の歴史の本を読みますと、カトリック・フランシスコ派の修道士 パチオロの「ズンマ」という数学書に初めて複式簿記が記述された、と いうことが書かれています。当時は学校制度がありませんでしたので、 パチオロはイタリアの富裕な商人の所に行って子弟の教育をしていたの ですが、そこで見た複式簿記による帳簿記入に関心を持ち、自分の著書 に記述したのであり、パチオロが複式簿記を発明したわけではありません。
この点が、天才アダム・スミスの永遠の書「国富論」によって作られた 経済学とは全く別なのです。複式簿記はイタリアの商人の所で一生懸命 に工夫しながら帳簿記入の仕事をしていた人達によって作られたのです。 帳簿記入という目立たない地味な仕事をしていたその人達の名前はどこ にも知られていません。
比較的規模の小さい大学では、経済学部で経済学も会計学(簿記会計) も並行して教えられますが、この二つはその出発点においては全く異な るものであり何の関係もありません。
( 簿記の発生を追体験する )
テキストに戻りましょう。上記の複式簿記の発生の歴史から分かるとおり、 もちろんテキストの著者達が複式簿記を発明したわけではありません。 著者達はイタリアの商人の所で自然発生した帳簿の記入方法を学んで、 自分たちの本に叙述しているだけです。
このような事情ですので複式簿記(以後、単に簿記と書きます)を習得 するには、自分で簿記の発生を追体験するしかありません。簿記の ような技術は本を読んで頭で考えているだけでは習得できません。
テキストの「まえがき」に「簿記の学習には、実際に多くの取引について 仕訳の問題を解き、複式簿記システムに関する練習問題を、繰返し解く ことが必要不可欠です。」と書かれています。
著者達は学校教師であり会計実務の経験がありませんので、どこまで 深く自覚しているかは分かりませんが、簿記を習得するには簿記の発生 を追体験することが必要不可欠です、ということを言っているわけです。
なお、著者達は「繰返し解くことが必要不可欠」と強調しますが、 会計実務の観点からしますと、数はそれほど多くない簿記の基本構造の 問題を実際に解いてみて簿記の基本構造を理解することが大切なのであ って「繰返し解くこと」が大切なのではありません。
そのようにして、簿記の基本構造をできるだけ早く理解することが、 会計実務の観点からは重要です。学校簿記と実務簿記の勉強の仕方の 違いです。「繰返し」は実務ではイヤになるほど経験できます。
(次頁に続きます)
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(了)

