(2019/3/1)

東大の会計学テキストを読む B

(前頁より続きます)

ところで、S教授は東大の学生に対し、簿記を予備知識としないで企業会計の講義を していますが、S教授の上記の本を読みますと、ご自身は簿記を熟知しておられる ようで、不思議です。

私はインターネットで S教授の経歴を調べて、その理由が分りました。S教授の上記 の本の著者紹介には学歴は東大大学院博士課程修了とだけなっていますが、 インターネットによると学部は私大の武蔵大学経済学部卒業なのです。S教授は 武蔵大学の学部時代に簿記をしっかりと勉強したのでしょう。

簿記のような科目は学部時代の若い時にしっかり勉強しないと、大学院に進学して からでは難しいのでしょう。私は大学院の経験は無いのですが、大学院では修士論文や 博士論文を書くのに追われてしまい、簿記のような科目を勉強している時間は無い ようです。

それに、簿記のようにその性質上ある程度の訓練を必要とする科目は、大学院生という 年齢になってからでは、普通の人には難しいのかもしれません。ものを学ぶに当たって 年齢というものは以外に大きな要素のように思われます。

( 田中耕太郎博士は敢然と簿記と会計の技術に取り組んだ )

こうしたことを考えますと、東大が生んだ、いや日本が生んだ、ただ一人の 世界的法学者田中耕太郎博士の存在は驚くべき事です。田中博士はご専門の商法を 研究するために、敢然と真正面から簿記と会計の技術に取り組みます。田中博士は 著書の中で次のように言います。

「貸借対照表法は商法の各範域で最も難解な部門に属する。其の然る所以(ゆえん) は、其れが特殊の技術即ち簿記及び会計の技術と密接に牽連(けんれん)している からである。〜略〜 我々は、以下、貸借対照表法の分析的かつ総合的考察を試みんと するものである。」貸借対照表法の論理 商法学特殊問題下(田中耕太郎著作集10) 1958年6月20日第1刷発行(春秋社)1998年4月30日復刻版(追補)第1刷発行 新青出版  4頁(現代的表記にし、難しい漢字に読みをつけました)。

田中博士は、同僚の経済学者の助力も得て、ご自分が難解であると考える簿記及び 会計の技術を徹底的に研究し、54歳の時に上記「貸借対照表法の論理」を出版したの でした。こうした田中博士の学問研究への姿勢を考えるならば、東大の学部生は 「簿記の勉強はする気になれない」などと言っていないで、しっかりと簿記の学習を してから会計学や会社法の勉強に進むようにしなければなりません。

学部時代に日商簿記3級のテキストを1冊勉強すれば U教授のように4版の著書で 収益と利益の取り違えをしている、などということにはならないのです。

東大の学部、大学院を経て会計学の教師として他の大学の経営学部や商学部に就職した 場合、教育の仕事として、簿記の講義もしなければなりません。昔と違い今は、 大学においても同僚や学生の目も厳しくなり、中途半端な知識で簿記や会計学の 危なっかしいフラフラの講義をすることが許される時代ではなくなりました。

( 簿記の発生を追体験することが重要である )

ところで、簿記のテキストには、「簿記を習得するには、本を読むだけではなく、問題 を電卓と鉛筆を使って計算し答えを書くということが大切です。」ということがよく 書いています。簿記はイタリアの商人のところで商業の会計帳簿記帳の方法として発生 しました。そして、イタリアの商人のところで、子弟の教育をしていたカトリック教会 フランシスコ派の修道僧パチョーリ(Pacioli)が、1494年に出版した著書「ズンマ」に イタリア商人のところで見た帳簿の記帳方法を書いたことによって世界に普及したので した。

つまり、簿記の勉強をするということは、今から500年以上前にイタリアの商人の ところで自然に発生した会計帳簿の記帳方法を追体験(ついたいけん)するということ なのです。「電卓と鉛筆を使って計算し、答えを書く」ということが強調されるのは、 簿記の発生のところを追体験することの重要性を言っているのです。

東大の学部生には、そこのところを素直に感じ取ってもらいたいものです。そして、 その追体験をした上で、会計学や会社法の勉強に進むようにしなければなりません。 そうすれば、上記の U教授のように、初版から1年2カ月という短期間に4版 (2版以降は誤り部分の訂正版?)になっても、まだ収益と利益を取り違えているところが ある、などということはありえません。

東大経済学部出身の U横浜市大教授は、簿記を知らない、いい加減な会計学の迷惑を 横浜市大にとどめて、私が学んだ大学にまで迷惑を広げないで欲しかったものです。 そして、現在、大学で学ぶ学生は、簿記や会計をよく知らないのに、分っているフリをして 教壇に立つ東大経済学部出身の会計教師に十分注意しなければなりません

(次頁に続きます)

(了)