(2018/12/1)

財務会計論を学ぶ(17)-保守主義の原則 A止-

とにかく、企業会計原則が公表されましたので、今度は企業会計原則の解釈、 運用の段階になります。そして、保守主義の原則を他の一般原則と整合性を 持って解釈しなければなりません。

通説の解釈としては、「桜井久勝 財務会計講義 第12版 2011年3月20日1刷発行」に書かれているように、 「利益を控えめに計上することになる会計処理を意味しており、、、」という 解釈であり、適用例としては、「たとえば保有中の商品の時価が低下した場合に、 評価額を時価まで切下げて評価損を計上する(低価基準)が、時価が上昇しても 商品の評価益を計上してはならない(実現原則)とされているのも、保守主義の 1つの現れである。」となっています。64頁 

しかしながら、この通説の解釈は、企業会計原則の一般原則の解釈としては、 いかにも弱いものです。商品の評価方法として、原価基準と低価基準の2つの 会計処理方法が認められているわけですが、低価基準の方(ほう)が保守主義の 原則に会っていますよ、ということです。

しかし、企業会計全体に適用される企業会計原則の一般原則である以上、 「企業会計はこうでなければならない」という一義的な力強い解釈であって欲しい ものです。通説の解釈では、企業会計原則の一般原則としての価値は無いのでは ないか、という疑問が生じます。

( 保守主義の原則の正しい解釈と適用例 )

そのため、「要説財務会計論 小林秀行著 平成3年5月20日 初版発行  中央経済社」 では、保守主義の原則を「企業会計上、将来事象に対して多くの 見積もり判断が介在するが、このばあい、保守主義の原則は、その会計処理 (認識・測定)に当たって、慎重な判断の行使によって企業の財政的健全性を確保 することを要請した、会計の認識・測定行為を規律する一般原則である。」と 解釈します。53頁 

そして、保守主義の原則の適用例としてつぎのものを上げるのです。 「 @ 貸倒引当金の計上額の見積もり A負債性引当金の計上額の見積もり  B有形固定資産の耐用年数および残存価額の見積もり C無形固定資産の有効年数 の見積もり D繰延資産の償却年数の見積もり E修繕費と改良費の識別
このようなケースにおいて、慎重な判断を行使することが、会計原則としての 保守主義の発現ということができる。」55頁 。

確かに、小林秀行教授のように解釈するならば、保守主義の原則は企業会計原則の 一般原則として価値のある原則となり、他の一般原則とも矛盾なく整合性が取れます。 会計実務を担当していると、見積もりによる判断は、しばしば出てくるからです。 そして、その見積もりに幅(はば)がある場合、企業の財政的健全性に資(し)する ように見積もり判断をしなければなりません。

ところで、保守主義の原則を小林秀行教授のように解釈するのは、少数派というより 小林秀行教授 御1人(おひとり)のように思われるのです。財務会計論の本を私が 読んできた限りでは、小林秀行教授以外の会計学者は、全員が通説のように解釈して、 あっさりと通り過ぎる感じなのです。これは一体なぜなのでしょうか。

( 通説を説く会計学者は「規定の解釈」を知らない )

考えてみますと、現在の通説を信じる会計学者は企業会計原則の一般原則に保守主義 の原則が入る原因となった「イギリス会計の伝統である会計の保守的思考」に引っ張 られて、そこだけに執着しているのです。

そもそも、小林秀行教授以外の会計学者には「規定の解釈」という概念が無いように 思われます。そのような思考の状況では、「規定の解釈」という行為を正しく出来 ようはずがありません。そのため、会計学者は、大家(たいか)も含めて、保守主義 の原則について安易に通説を信じてきたのです。

保守主義の原則の正しい解釈をするためには、出発点となった「イギリス会計の伝統 である会計の保守的思考」は、あくまでも1つの参考と考えて、あらためて、もっと 広い観点から考えてみなければならないのです。

小林秀行教授は、その特長である粘り強い思考によって、通説を脱して、上記のような 保守主義の原則の正しい解釈に到達したのです。

( 規定を正しく解釈するとは、どういうことなのか )

私は若かった時、会計実務で出会う法律の解釈の方法に悩み、日本が生んだ、ただ1人 の世界的な法学者 田中耕太郎博士の「法律哲学論集1 昭和17年12月10日  第2刷発行 岩波書店」 の中の「法律学とは何ぞや」を読んだのでした。

そこには、法の解釈について、このように書いてありました。「この故に文理解釈に 論理解釈- 一層正当なる語を用いれば法律的解釈- を対立せしむることは出来ぬのである。 後者のみが真の解釈であり、後者のみを以て足るわけである。この故に拡張解釈、 縮小解釈及び変更解釈の如き存在する理なく、是れ文字の表面的意義に拘泥するからで あって、法の云わんと欲する所を文字の末に拘泥せずして判断するならば斯くの如き 解釈の種別は存し得ぬ。」244頁(現代的表記にしました)。

この文を読んで、私の迷い、悩みは解消したのでした。そして、田中耕太郎博士は更に 次のように書いていました。「此の故に法典起草者の心理に基く矛盾や欠陥や不明瞭は 解釈者に対しては問題にならない。解釈者は之れより離れて立法者の合理的なる意思 即ち円満欠くる所なき法律秩序の意味を探求しなければならぬ。解釈者は実に「 起草者が彼れ自身を理解したるよりも、更によりよく其の起草者を理解することを要 する。」251、252頁(現代的表記にしました)。

企業会計原則は法律ではありませんが、その規定の解釈というものは、法の解釈と基本的 に変わらないと考えられます。 上記の小林秀行教授は、まさに、田中耕太郎博士のいう 解釈者の立場に立って、企業会計原則の一般原則六 保守主義の原則を正しく解釈したと 言えましょう。

願わくば、保守主義の原則に関する現在の誤った通説が速やかに捨てられて、出来るだけ 早く小林秀行教授の解釈が広く通説となって、誰もが無理のない正しい解釈によって 保守主義の原則を学べる状況になって欲しいものです。

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(了)