財務会計論を学ぶ(16)-保守主義の原則 @-
前回は、企業会計原則の一般原則二 正規の簿記の原則に(注1)として 附属している重要性の原則について書いたのでした。今回は、企業会計原則 の一般原則六 保守主義の原則について書きたいと思います。
この原則は「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、 これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。」というものです。
この保守主義の原則を読んだ時、私は「これが、なぜ企業会計原則の一般原則 なのか。企業会計原則の一般原則とは、必ず守らなければならない会計の原則 である。それで一体、何を守らなければならないのか。」と疑問に思ったので した。
保守主義の原則以外の企業会計原則の一般原則は、簿記の技術を踏まえた上で、 会計の根本原則である費用収益対応の原則、期間損益計算、といった考え方が 貫かれています。
しかしながら、保守主義の原則は他の一般原則との整合性がどのようになって いるのか、容易には理解できないのです。他の一般原則から孤立し、浮いている 感じです。
( 会計学者は保守主義の原則の意味と適用例を考えた )
そのため、会計学者の方(かた)たちは、一生懸命に保守主義の原則の意味と 適用例を考えて来たのでした。
私は、以前、企業会計原則が作られた背景、作った人、作られた過程、などを 調べたことがありました(財務会計論を学ぶ(8)-企業会計原則-)。それに よりますと、企業会計原則の一般原則は黒澤清 横浜国大教授が、 上野道輔 東大教授と岩田巌 一橋大学教授から渡された二つのメモを基に、 本来は結びつかない二つのメモを一生懸命に苦心して結びつけて作成したので した。
そのメモは次の通りです。
(上野メモ) 第一 真実性の原則 第二 正規の簿記の原則 (岩田メモ) disclousre の原則 consistency の原則 materiality の原則 disclousrは明瞭性、consistencyは継続性、materialityは 重要性、とするのが適当であろう。
これらの二つのメモには、保守主義の原則は入っていません。保守主義の原則は、 イギリス会計の伝統である会計の保守的思考「予測に基づく損失は計上すれども 利益は計上せず」から取られたと言われています。
上野メモはドイツ会計学の影響があります。そして、岩田メモはアメリカ会計学の 影響を感じます。
つまり、イギリス会計の伝統から取られた保守主義の原則はドイツ会計学と アメリカ会計学に挟まれて、ポツンと孤立しているのです。そのため、他の 一般原則と整合性を取って意味を理解するのが難しいのです。
( 保守主義の原則は、なぜ企業会計原則に入ったのか )
なぜ、上野メモにも岩田メモにも無い保守主義の原則を黒澤清 横浜国大教授は 企業会計原則の一般原則に入れたのでしょうか。黒澤教授ご自身がイギリス会計 の伝統に魅力を感じていたのか、あるいは、イギリス会計学を研究していた学者 が企業会計原則の作成委員におられて、イギリス会計伝統の保守的思考を 企業会計原則の一般原則に入れるように強く主張したため、黒澤教授がその委員 の顔を立てて入れたのか、それとも、、、、。
結局、どんな理由かは分かりませんが、とにかく、一般原則六 として黒澤清 横浜国大教授は保守主義の原則を企業会計原則一般原則に入れたのです。 こうして、日本の企業会計原則はドイツ会計学、アメリカ会計学、イギリス会計学 の混じり合ったものになって完成したのでした。
日本の経済制度、社会制度は、このようにして、欧米先進国の制度を取り混ぜて 作られたものがほとんどです。従いまして、出来上がった制度の理解がなかなかに 難しいのです。法学部や経済学部などで学ぶ学生の苦悩の原因の大部分がここに あります。
いずれにしましても、企業会計原則は公表されて制度となり、企業会計に強い 影響を持つようになったのでした。
ところで、私が受けた五十年前の大学の財務会計論の授業では、このような 企業会計原則の作成過程は全く語られませんでしたので、授業を受けている学生 は何が何だか分からない内に、空しく 1 年が過ぎていくのでした。
あれから五十年経った現在の大学の財務会計論の授業はどうなっているでしょうか。 今も五十年前と同じく、企業会計原則の作成過程が全く語られないとしたら、 学生は、やはり何が何だか分からない状況でしょうから気の毒なことです。
(次頁に続きます)(了)