(2018/11/1)

財務会計論を学ぶ(13)-重要性の原則 @-

前回は、正規の簿記の原則について私の体験を語ったのでした。今日は、 正規の簿記の原則に(注1)として附属している「重要性の原則」について 書きたいと思います。

重要性の原則は正規の簿記の原則の(注1)となっていますが、会計実務 の観点からしますと他の一般原則と並んで、あるいはそれ以上に影響の 大きい原則です。

会計実務の全体にわたって影響している上に、わりと頻繁に使われる原則だ からです。企業会計原則注解では、重要性の原則を次のように解説します。

「企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべき ものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかに し、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることに あるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によら ないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として 認められる。重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。」

この解説には財務会計論特有の一つの重要な考え方が示されています。 それは、企業会計の目的が強く意識されているということです。「企業会計 が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関 する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにある」という部分です。

会計実務の担当者は会計の目的を常に意識していなければなりません。 企業会計は自然科学ではありませんので、目的を達成できるなら、計算に 関する経済性を考慮して、簡略な処理を容認するのです。

( 重要性の原則の適用例を見る )

企業会計原則注解には重要性の原則の適用例として5つの例があげられて います。この5つの例は例示列挙です。例示列挙とは、色々な例が考えら れる中から、5つの例を示してみたというものです。

この5つの例の中から1つ取上げてみます。「企業会計原則注解[注1](2) 前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものに ついては、経過勘定項目として処理しないことができる。」

これは日商簿記3級で習った「費用・収益の繰延べと見越し」に重要性の 原則を適用した場合のことを書いているのです。なお、財務会計論では 「費用・収益の繰延べと見越し」によって発生する前払費用、未収収益、 未払費用及び前受収益という4つの勘定科目を経過勘定項目と言います。

この場合、重要性は各々の経過勘定項目の金額を売上高などの金額と比較 して判断します。従って、「○○○円以下なので重要性が乏しい」、などと 固定した金額で一律に判断することはできません。各企業によって、 売上高などの金額は異なるからです。

各企業は、自社の売上高などの金額を基準にして、企業会計原則注解[注1] の規定に従って重要性の判断をすることになります。この辺(あた)りが、 会計実務の初心者にとって難しいな、と思ってしまうところです。スッキリ と割り切れない気持ちの悪さが残るわけです。

( スッキリと割り切れない気持ちの悪さに耐える )

学校の試験とは異なる、会計実務という大人の世界に従事しましたら、 そのような、スッキリと割り切れない気持ちの悪さに耐えるのも仕事の一部 であると考えた方(ほう)が良いと思います。

そして、財務会計論の体系を徐々に把握し、会計実務の経験を経れば、 「そういうことか」と、ある時、分かってきます。

例えは悪いかもしれませんが、私が、かって勤務したようなごく普通の企業 にとって、経過勘定項目は象のシッポのようなものでした。シッポだけを見 ていても、これが何であるかは、なかなか分からないのです。

日商簿記3級で習う「費用・収益の繰延べと見越し」が分かりにくいのは 、実は、象全体を見ないで象のシッポだけを見せられて「これは何か」と 問われるからなのです。

この場合、象全体とは財務会計論の体系です。この財務会計論の体系を把握 することは時間もある程度かかり、ある程度忍耐が求められます。財務会計論は、 言葉によって形作られた体系です。従って、直接に目で見たり、手で触(さわ )って確かめることはできません。抽象的な世界です。そこが難しいところ です。

日商簿記3級の勉強では、「費用・収益の繰延べと見越し」が分かりにくく て苦労すると思います。しかも、昔の簿記の権威者の学者の方が考えた仕訳で、 今も続いている翌期首の再振替仕訳となると、「これは何だろう?」と思うもの です。誤った仕訳とは言えませんが、日商簿記3級では、この辺(あた)りも重要視されて いて、簿記の入門の段階でこのような枝葉(しよう)に拘(こだわ)って、初心者を 混乱させるのは、伝統とはいえ誠に困ったものです。

その上、会計実務では未払費用などは、重要性の原則を適用せずに日商簿記3級の テキストの通りに、未払費用の計上そして翌期首の再振替仕訳をすると、翌期首の 月次決算で未払費用は借方残高、支払利息は貸方残高という極めて不自然な数字に なってしまうこともあります。こうした不自然を避けるため、会計実務では期中に 処理したり、期末に処理したりして、不自然を避けているのでした。

現在では、ほとんどの企業が月次決算制度を採用しています。そうした実情を無視して、 昔の学者が考えた再振替仕訳の会計処理方法を後生大事に、そのまま日商簿記3級の テキストに採用しているのは、長年、会計実務の仕事を担当してきた者から見ますと、 誠に困ったものです。

しかし、やむを得ません。日商簿記3級の「費用・収益の繰延べと見越し」 は財務会計論の体系全体から見たらシッポの部分と割り切って、あまり考え 込まずに勉強を進めるのが得策だと思います。簿記の勉強の最初の頃は、 このような事情もあって、どうしても多少の行ったり来たりがあるもので、一直線の勉強はなかなか できないものでした。

(次頁に続きます)

(了)