(2018/9/1)

財務会計論を学ぶ(12)-正規の簿記の原則A止-

(前回より続く)

「要説財務会計論 小林秀行著 中央経済社 平成3年5月20日初版発行」 では正規の簿記の原則を会計の「記録」の過程に作用する規定と捉え、 「正規の簿記」が具備しなければならない要件として次の3つを上げます。38頁

    1、記録の網羅性

     2、記録の立証性

     3、記録の組織性

そして、2、記録の立証性について次のように説明するのです。 「記録は、その対象である取引事実を立証する証拠資料(証拠書類)に よって支えられていなければならないことを要求する。これは、 記録の源泉(根拠)を規定する要件であり、記録の源泉が証拠資料にある ことを意味する。」

会計実務の観点からしますと、ここの部分は会計処理の記録の過程において、 「超」のつく重大部分です。しかしながら、上記の桜井教授のように 「したがって企業はまず、発生したすべての取引を、事実や証拠に基づいて、 継続的・組織的に記録することによって、網羅性・検証可能性・秩序性を備 えた会計帳簿を作成しなければならない。」60頁 、という簡潔な 一つの文にまとめてしまった解説のみでは、解説として誤ってはいないので しょうが、初学の読者にはここの部分の超重大性を読み取ることはとても 難しいことかもしれません。

もしかしたら、桜井教授ご自身がここの部分をそれほど重大と考えていない のかもしれません。これに対し、小林秀行教授は、「記録の立証性」につい て上記のように「証拠資料(証拠書類)によって支えられていなければなら ない」と具体的な説明をしています。

長く会計実務を経験した者から考えますと、小林秀行教授の思考、解釈は 具体的で、そして表現が工夫されていて明晰であり、特に初学者にとって 親切な分かりやすい、かつ、行きとどいた解説になっています。表面的な 解説に流れないのは、解説の根底に小林教授の深く考え抜かれた思考が あるためと思われます。

売上高から売上原価を控除した粗利益の金額の端数を切捨てて丸めた 数字が、配送費という経費を計上する証拠資料(証拠書類)になろうはず がありません。

あまりにも明白に会計基準の出発点である企業会計原則に反した処理で した。しかし、悲しいことに力不足で、正しい会計処理に直すことができ ないまま、1年近くが経った頃、販売子会社に税務署の調査が入ったの です。

会計を担当していた私が調査を受けることになりました。調査の途中まで は何ということもなかったのですが、調査が半分を過ぎた頃、まずいことが 起きました。

ある経費を販売子会社と営業所で分割負担していたのですが、そのことを 担当者が領収書に記載していたのです。実はそのときまで、調査官は営業所 の存在に気づいていなかったのです。

調査官は私に「営業所があるのですね。営業所の売上は会社全体の何割ぐらい ありますか。」と聞いてきました。割合によっては営業所の方(ほう)も 調査に行かねばならないな、という雰囲気です。

( 上司は財務会計論を知らないのだった )

営業所の調査になれば、上記の「配送費」の問題が出てきます。私は心の動揺 を抑えながら考えて、落ち着いて「2割ぐらいです。」と答えました。私の 答えに調査官がどのように考えたのかは分かりませんが、営業所の調査は やらずに終わったのでした。

もう45年以上前の昔のことですが、こうして書いていましても背中が ヒヤリとします。ソロバン1級の課長は50代の方で、長年の会計の経験が ありました。係長は30代半ばぐらいの方でしたが、難しい昇格試験に合格 した優秀な人でした。さすがに創立者が一万円札の肖像にもなっている 名門大学 K大出身でした。

しかし、お二人とも会計基準の出発点である企業会計原則の一般原則二 「正規の簿記の原則」を知らないで会計の仕事をしているのでした。 20代半ばのまだ未熟だった私は、この課長、係長の二人に、税務調査で ヒヤリとさせられ苦しみました。会計の現場では、転勤して前任者から仕事 を引き継いで、不適切な会計処理方法を直せないまま1年近くも続けてし まったら、その不適切な会計処理は自分の責任になるのでした。転勤の 多い大企業に勤めて会計を担当する会社員の苦しく辛いところです。

財務会計論を学んだ後ならば、スーパーマーケット対応のために発生した 経費は「正規の簿記の原則」に基づいて全て販売会社営業所で仕訳し、 費用負担しなければなりません。。そして、スーパーマーケット業界特有の 厳しい競争から来る問題については、別途に対応しなければならないのです。

スーパーマーケット業界特有の厳しい競争から来る問題とは、力関係で低く 押さえられる納入価格、多量の返品、多頻度の販促キャンペーン費用などです。

私はこの税務署の調査の後、すぐに職場が異動になり、そして、間もなく転勤 になったのでした。

( 財務会計論の勉強が大切です )

イタリアの商業実務の現場で自然発生的にできた簿記を出発点とする会計実務 は確かに経験が大切です。しかし、経験だけではダメなのです。経験だけでは 企業を取巻く環境が変わったとき、新しい環境に対応した適切な正しい 会計処理ができません。

そして、企業を取巻く環境は、業界によって変化の速度に違いはありますが、 常に変化していきます。

会計実務には、優れた知性の人達が長い時間をかけて築き上げて来た 会計理論が纏(まと)められている財務会計論の勉強が必須です。 財務会計論の知識がありませんと、新しい事態に対したとき、会計の原点に さかのぼって考えて正しい会計処理を実施するということができないのです。

私は20代の若かった時、このような辛い体験がありましたので、その後、 財務会計論の勉強に力を入れました。そして、自分が会社で係長、課長と いう立場になった時、後輩や部下に確信と自信を持って正しい会計処理の指導 をすることができました。

そして、財務会計論について無知なのに、知っているふりをして会計基準に 違反した不適切な会計処理を苦し紛(まぎ)れにハッタリで考え出して、 まだ未熟な若い後輩や部下に押しつけ苦しめるという、上記のソロバン1級の 課長や、創立者が一万円札の肖像になっている名門大学 K大出身の係長の ような、会社員として最低の罪悪な事は、当然のことではありますが、しま せんでした。

(了)