財務会計論を学ぶ(11)-正規の簿記の原則@-
前回まで企業会計原則の一般原則全体について話したのでした。 今回は一般原則の二「正規の簿記の原則」について、私の体験を書き たいと思います。
私はまだ20代の若かった時、「正規の簿記の原則」をよく理解し ていなかったために冷や汗を流したことがありました。
企業会計とは企業に起きる経済事象を「認識・測定→記録→表示→ 報告」する行為です。企業会計原則の一般原則の各々(おのおの)は それらの行為に作用し規制します。
「正規の簿記の原則」は、これらの一連の行為の中の「記録」に作用 し規制する原則です。そして、会計実務は日々、企業に起きる経済事象 の記録の連続であり、そのため、「正規の簿記の原則」は極めて重要な 原則なのです。
私は20代半ばの頃、転勤である地方の支店に転任しました。そして、 そこで前任者から引き継いだ業務の一つに、販売子会社の会計があった のです。
毎月、その販売子会社の月次決算をし、年度末になりましたら期末決算 をしました。この販売子会社には1つだけ営業所がありました。この 営業所の会計が問題でした。
( スーパーマーケット業界は急成長した )
実は、この営業所は販売子会社の経営方針で作られた営業所ではあり ません。その頃、1970年代半ばのことですが、小売業の中で スーパーマーケット業界が急激に勢力を伸ばしてきました。
私が勤務する会社も急激に勢力拡大するスーパーマーケットへの対応 を急がなければなりません。私が勤務する会社は全国展開している メーカーでしたので、スーパーマーケットへの対応は本来、販売子会社 の役割でした。
しかしながら、販売子会社には急激に勢力拡大するスーパーマーケット に対応する力が無いのでした。そのため、親会社の支店の営業部門が 専門の対応部署を作ってスーパーマーケットへの営業、販売促進、 物流などのすべてを担(にな)いました。
しかし、商流が問題でした。急激に伸びているといっても一つひとつが 小規模なスーパーマーケットの多数の店に対して、全国展開している メーカーの工場が請求書を個別に立てたりするようなことは事務処理的 に不可能です。
スーパーマーケットは売残り品(うれのこりひん)の返品も多く、 メーカーにとって、それまでに経験したことの無い特殊な部分が多いの でした。
結局、販売子会社の営業所を作って商流を処理しました。つまり、 工場からの請求書は販売子会社の営業所に一本で来るのです。
販売子会社の営業所では、スーパーマーケットへの売上が計上され、 工場からの請求書に基づいて仕入れが計上されるのでした。
しかし、経費はすべて上記の支店の営業部門から支出されて計上されて います。売上高、売上原価が計上される事業所と経費を支出負担する 事業所が全く異なるという実におかしなことになったのです。
このおかしな状況を解決するために、営業所におけるスーパーマーケット への売上高から売上原価を控除した粗利益の金額から端数を切捨てた額を 毎月、販売子会社の営業所から支店の営業部門に「配送費」として徴収し、 親会社の支店の営業部門の経費に戻すことにしたのでした。
この会計処理方法は、私が支店に転勤して販売子会社の会計を引き継いだ ときには、販売子会社の営業所ができた時からの方法ということで、この やり方でやってくださいと私に引き継がれたのでした。
この会計処理方法は、課長と係長が考えた処理方法でした。課長は ソロバン1級の腕前ということで、自信に満ちて毎日パチパチとソロバン を弾(はじ)いていました。
当時はパソコンどころか電卓がやっと出回り始めた頃です。今では想像 もできませんが、ソロバン1級は一つの大(たい)した技能なのでした。 一方、係長は創立者が一万円札の肖像にもなっている有名な名門私立大学 K大の出身ということで、いかにも名門大学出身らしい悠揚迫 (ゆうようせま)らざる物腰で仕事をしていました。
しかし、課長、係長が考えたというこの会計処理方法は何だかおかしいな、 と私は思いました。しかしながら、20代半ばのまだ未熟だった私には、 悲しいことに、具体的にどこがどのような理由でおかしいのか指摘でき ないのでした。
( スーパーマーケット急成長に適切な対応ができないのだった )
財務会計論をよく勉強してから考えますと、この会計処理方法は、 企業会計原則の一般原則の二「正規の簿記の原則」に明らかに違反して います。
ソロバン1級の課長は、「仕事にはハッタリが必要だよ。」と言うので した。しかし、会計実務は「ハッタリ」のようなものが通用する生易 (なまやさ)しい世界ではないのです。
また、「財務会計論を勉強してもムダだよ。会計実務は法人税法の勉強 が大事なんだよ。」と言う人がいました。この人は法人税法の構造の基本 を知らないのでした。法人税法は財務会計論を基礎にして構築されている のです。
「財務会計講義 桜井久勝 第12版」は、正規の簿記の原則のところで 「したがって企業はまず、発生したすべての取引を、事実や証拠に基づいて、 継続的・組織的に記録することによって、網羅性・検証可能性・秩序性を 備えた会計帳簿を作成しなければならない。」と解説します。60頁
上記販売子会社営業所の「配送費」の会計処理はこの「検証可能性」に反 しているのです。売上高から売上原価を控除した粗利益の数字の端数を 切捨てて丸めた金額を「配送費」ということで経費に計上する方法は、 根本的に「正規の簿記の原則」に違反していました。
この会計処理方法は、私が引き継いだ時点で既に2年ぐらい続いていたと 思います。
課長と係長が考えて作ったこの会計処理方法を「正規の簿記の原則に違反 しています。」と二人に説明して正しい処理方法に直す力が、情けない ことですが、まだ若かった20代半ばの私には無いのでした。
(次回に続く)(了)