財務会計論を学ぶ(9)-企業会計原則-
(前回より続きます)私は、30代後半に転職のために会社を退職しましたが、次の会社に再就職するまでの ごく短期間でしたが、会計専門学校で財務会計論の勉強をしたことがありました。その時の 講師の先生は、地方の短大教授でしたが、企業会計原則の一般原則を体系的に解釈し 捉えることに情熱を持っておられました。
その先生は、その後ある大学に異動して、財務会計論の体系書を出版されたのでした。 その本の中で、企業会計のプロセスは次のように捉えられます。「要説財務会計論 小林秀行著 平成3年5月20日初版発行 中央経済社」35頁(サイトに引用するため、 やむを得ず表現の形を変え簡略にしています)
(企業会計のプロセス)
(企業経済事象)→@認識・測定→(測定値)→A記録
→(会計帳簿)→B表示→(財務諸表)→C報告→
(外部利害関係者)
そして、上記の@〜Cの各々のプロセスに 企業会計原則
の一般原則が次のように関わっていると解するのです。
@認識・測定ー資本取引・損益取引区別の原則、
継続性の原則、保守主義の原則、
重要性の原則(処理)
A記録ー正規の簿記の原則
B表示C報告ー明瞭性の原則、重要性の原則(表示)、
単一性の原則
@からCの全体のプロセスー真実性の原則
企業会計原則の一般原則についての小林秀行教授の解釈、理論構成は会計の現場で働く者 にとって素直に納得できて、会計実務の基盤を強力に支えてくれる思考でした。
一度(ひとたび)、企業会計原則の一般原則として公表されて、会計の世界に強い影響力を 持った以上、作成の過程とは離れて、どのように解釈して体系的に理論構築するかが重要に なります。
作成の過程は解釈のための資料の一(ひと)つに過ぎなくなるのです。昭和24年に 企業会計原則が公表されて約40年、その解釈を巡(めぐ)って会計学者を始めとする多く の会計関係者の議論がありましたが、小林秀行教授の解釈、理論構成によって、 企業会計原則の解釈、理解に一(ひと)つの完成を見たのだと思います。
( 小林秀行教授は緊密な文体で会計の世界を構築したのだった )
小林秀行教授の上記の著書の文体にも注目したいと思います。小林教授の文体は一字一句 をゆるがせにしない緊張した文体です。用語の一つ一つ(ひとつひとつ)の概念が考えつく され、それらの用語が緊密に結びつけられて、会計という一つの世界が堅固に構築され表現 されています。
例えば次のような文です。「費用収益対応の原則は、適正な期間損益計算を達成するために、 一会計期間の費用と収益とが企業の同期間の経営努力と成果の関係、すなわち対応関係を 充足して期間利益を計算することを要請した損益計算の根本原理・原則である。」65頁
私は会計実務を担当する者として、小林教授の上記の著書を読むことによって、転職した 会社の厳しい環境の中で、内的確信から来る自信を持って日々の会計業務の判断、処理が できるようになったのでした。会社員は転職した先の会社で真の実力を試されます。いわば、 他流試合の真剣による斬合いになるのです。身につけた自分の実力だけが頼りの世界です。
会計学は文科系の学問です。文科系の学問は、文体と切り離して存在することはできません。 しかも、会計学は商業の現場から自然発生的に生まれた簿記という技術に支えられています。 他の文科系学問より更に困難を抱えているわけです。私は、初めて企業会計原則の一般原則 を読んだ時、日本語離れした奇妙な文章に戸惑(とまど)いました。
そして、今回、企業会計原則が作られた過程を調べてみて、その戸惑いの理由が分かったの でした。企業会計原則の一般原則は、ドイツ会計学、アメリカ会計学、イギリス会計学などが 混じり合って、できているわけです。
つまり、その元はドイツ語、英語という外国語なのです。企業会計原則作成の中心となられ た3人の会計学者の方は、ドイツ語、英語という外国語と格闘しながら戦後の会計学の 出発点になる企業会計原則を作成したわけです。分かりにくい奇妙な日本語になって当然です。
明治時代以前は、日本語の文には源氏物語風の和文系と平家物語風の漢文系の二つがあった と言われます。源氏物語風の和文系とは、学校の国語で習った「いづれの御時にか。女御、 更衣あまたさぶら給ひけるなかに、〜 」という文章です。
そして、平家物語風の漢文系とは、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の 花の色、盛者必衰の理をあらはす。〜」という文章です。
( 漱石は明治時代の新たな文体を作った )
そして、明治時代になって、英文学者夏目漱石が苦悩の果てに、その作品によって欧米の 言語に対応した新しい日本語の文体を作り出したのだ、ということを若いときに本で読んだ ことがあります。
漱石文学の非常に有名な最初の作品の冒頭は次のような文章です。「吾輩は猫である。名前 はまだ無い。どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャー ニャー泣いていた事だけは記憶している。〜 」
( ドイツ会計学などを日本語で捉える文体の苦悩 )
しかし、漱石は文学者です。漱石が英文、漢文、和文、の三つと苦闘して生みだした上記のような 小説の文体そのままではドイツ会計学などを捉えることが出来ようはずがありません。もう一回 りの苦心の果てに出来たのが、あの日本語として奇妙な感じの、初めて読んだ時、何を言ってい るのだろうと思ってしまう、あの企業会計原則の一般原則なのです。
つまり、ドイツ語などの直訳体なのです。それから約40年を経て、会計学者の方を中心と した会計の関係者の努力と苦心によって、私のような者が読んでも素直に分かる上記の 「要説財務会計論 小林秀行著」のような本が現れたのでした。その間に、ヨーロッパで発生 した会計学の緻密な議論ができる日本語ができたのです。その間(かん)の日本人の苦闘を 思うべしです。
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(了)
