(2018/2/10)

財務会計論を学ぶ(8)-企業会計原則-

(前回より続きます)

会計の話に戻りますが、企業会計原則には現在の企業会計制度の出発点となる 会計理論が纏(まと)められていますので、会計実務に従事する人にとって会計法規を 学ぶ出発点になるわけです。従いまして、現在出版されている会計法規集におきましても 一番最初に置かれています。

初めて企業会計原則を読んだ時、私はその文に違和感を感じました。企業会計原則の 一番最初に置かれているのは、「企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、 真実な報告を提供するものでなければならない」というものです。真実性の原則と 呼ばれます。

今から考えますと、違和感の原因は、この文が何を言おうとしているのか、皆目 見当がつかないからでした。私は、初めて企業会計原則を読んだ若かった時、企業会計原則が 作られた背景、作った人、作られた過程、などについて何も知らなかったのでした。

企業会計原則が公表された昭和24年という年は、日本がアメリカとの戦争に完全に 敗北してから、まだ4年しか経っておらず、日本中が敗戦後の混乱の中にありました。 そして、昭和24年、日本はまだ占領軍 GHQ の支配下にありました。そのような状況下 で企業会計原則は作成されたわけです。

( 企業会計原則の作成過程を調べる )

私は企業会計原則が作られた背景、作った人、作られた過程、などについて知りたいな、 と思いました。私はインターネットで探しました。

そして、「諸井勝之助 企業会計制度対策調査会と会計基準法構想」という論文を 見つけて読んだのです。インターネットは本当にありがたいものです。諸井勝之助氏は、 1924年生 東京大学経済学部商業学科卒 東大教授 定年後 新潟大教授  青山学院大教授 を歴任しています。「経営財務講義」などの業績があり、信頼でき そうです。

上記の論文を読みますと、企業会計原則は3人の会計学者が中心になって作成された のでした。上野道輔東大教授(61歳)、岩田巌一橋大教授(44歳)、黒澤清 横浜国大教授(34歳)、の3人の会計学者の方(かた)です。( )内の年齢は 企業会計原則が公表された時の年齢です。

そして、企業会計原則の冒頭に置かれる一般原則を提案するためのたたき台を作る のは黒澤清教授の役割とされたのです。上記のように年齢が一番若いというのが 理由でしょう。上野道輔教授は会計学の長老、大家(たいか)であり、岩田巌教授 は天才肌の会計学者だったようです。

( 黒澤教授は二つのメモから一般原則のたたき台を作った )

そして、黒澤教授が一般原則のたたき台を作る資料として事前に上野教授と岩田教授 から若い黒澤教授にそれぞれメモを渡されたのでした。それぞれのメモは次のような ものでありました。

 (上野メモ)

  第一 真実性の原則
  第二 正規の簿記の原則

  (岩田メモ)

  disclousre の原則
  consistency の原則
  materiality の原則

  disclousrは明瞭性、consistencyは継続性、materialityは
  重要性、とするのが適当であろう。

この2つのメモを渡された黒澤教授は苦悩されたことでありましょう。上野メモと 岩田メモに会計哲学の差異を感じ取ったからです。しかし、上野教授と岩田教授の 両方の顔が立つように、また、日本は当時、占領軍 GHQ の支配下にありましたから、 占領軍 GHQ の目も意識しながら、黒澤教授は何としてもこの2つのメモを使って 一般原則のたたき台を作らなければなりません。

上野教授はドイツ会計学の影響を受けて研究をしました。一方、岩田教授は上記の メモを見る限りアメリカ会計学の影響を強く感じます。そして、黒澤教授は語ります。 「〜 しだいに私は、ここにいわゆる会計哲学の差異は、けっして絶対に結合不可能な 対立的なものではないと考えるにいたった。私は、一方を日本経済の再建復興の基礎を 提供するための真実性の哲学と名づけ、他方を資本市場の近代化を目指す開示の哲学と 呼ぶことにした。ー中略ーともあれ私は、この会計思想を参酌しながら、会計の 一般原則に関する黒澤メモをつくって、対策調査会に提出した。〜 」

そして、この黒澤メモがたたき台になって、議論を経て、最終的には企業会計原則の 一般原則は7つの原則になったのでした。上記の黒澤教授が語る部分で注目するのは 「けっして絶対に結合不可能な対立的なものではないと考えるにいたった」という部分 です。つまり本来は、「絶対に結合不可能な対立的なもの」を色々と考えて結合したと いうわけです。

そして更に、黒澤教授は「開示の哲学」と捉えた岩田メモの「materiality (重要性) の原則」を上野メモの「第二 正規の簿記の原則」に含蓄させることによって、その 意味転換を試みたというのです。確かに、企業会計原則の一般原則 の 正規の簿記の 原則には (註1)として「重要性の原則」が付いています。

( 一般原則はドイツ会計学などが混じり合ったものだった )

それから、黒澤教授はアメリカの会計原則から「資本と利益の区別の原則」を取り入れ、 更に「保守主義の原則」「単一性の原則」を加えて最終的には企業会計原則の一般原則を 7つの原則にしたのです。「保守主義の原則」はイギリス会計学の思想から取られたと 言われます。つまり、企業会計原則の一般原則は、ドイツ会計学、アメリカ会計学、 イギリス会計学などが混じり合っているわけです。

企業会計原則の一般原則の解釈が難しくなるはずです。その辺(あた)りの事を考えて でしょうか、「財務会計講義 桜井久勝 第12版 」では、59頁から66頁までと、 あまりスペースを取らずにあっさりと、企業会計原則の一般原則を流すように説明して います。

企業会計原則の一般原則の作られ方を知りますと、それも一(ひと)つの行き方(かた) かなと思います。国家試験向けテキストとして書かれていますので、定期的に変わる色々な 出題者の学説、主張を考慮して当たり障りの無い書き方になっていくのだろうと思います。 しかし、会計実務を担当する者の立場からは、一度(ひとたび)、企業会計原則の一般原則 として公表されて、会計の世界に強い影響力を持った以上、各々の原則の関係、会計実務と の関(かか)わり方の解釈を知りたいところです。

(次回に続きます)

財務会計講義(第18版)

新品価格
¥4,104から
(2017/10/29 13:23時点)



(了)