日商簿記3級と会計実務との相違点(3)
私は、若かった時、次の対談本を読んだことがありました。
対談・簿記の問題点をさぐる 著者 中村忠 大藪俊哉
昭和62年1月20日 初版発行 税務経理協会
中村忠は一橋大学教授で財務会計論の大家(たいか)でしたが、簿記教育 にも熱心でした。簿記のテキストも書いておられます。
一方、大藪俊哉は、戦後の簿記論の第一人者であった沼田嘉穂横浜国立大学教授 から直接その教えを受けた弟子として沼田簿記を忠実に継承し、沼田教授の後を 継いで母校の横浜国立大学教授となられました。
そして、お二人は若いときから親しい間柄なのでした。
( 日商簿記は大学の教育者や学者の影響が強いと考えられる )
この本の中の第2章2商品売買取引を読むと、お二人の商品売買の処理について のお考えが分かるのです。37〜42頁 中村教授は初歩の学習者に分かりやす く教える方法として、まず分記法を教え、次に三分法を教える、と言います。
大藪教授は、研究者として色々考えるところがあるが、初心者に教える方法と して、中村教授の主張には意味がある、と肯定的に応じます。
更に、大藪教授はアメリカの商品売買の処理方法の 1つとして「〜中略〜商品 勘定と売上勘定と売上原価勘定で処理していく。」という方法があると紹介して います。つまり、前回書きました売上原価対立法です。
お二人は共に戦後、簿記教育や研究をリードしてきた大家です。日商簿記に おける商品売買の処理方法の解説の順序などは、お二人のような教育者、学者 の方の教室での教育経験や研究室での研究が強く反映されていると考えられます。
( 実務では会社によって売上原価対立法を使ったり三分法を使ったりするのだった )
一方、私が学校を終えて就職した会社では売上原価対立法が採用されていました。 大正時代に創業された歴史の長い会社でした。製造業でしたので棚卸資産の大きな 部分は製品勘定でした。しかし、仕入もありましたので商品勘定もありました。 製品、商品勘定はどちらも売上原価対立法です。
月中は、製品、商品の数量の動きを受払表に記入して管理します。仕訳は月単位 に月末付けで起票するのです。月次決算制度を採用していました。そして、 月末や期末には実地棚卸をして管理をしていくのです。
1つの事業所の規模が大きく、多種類大量の製品、商品がありましたので、 日商簿記3級の商品有高帳のように数量と金額を同じ表で管理することはできな いのでした。
上場企業でしたので、期末になると事業所が選択指定されて公認会計士立会い の実地棚卸監査もありました。
30代後半に転職した会社は業種は商業でした。戦後に創業された若い会社でした。 商品売買の仕訳の方法としては三分法が採用されていました。商品などの管理方法 は同じです。私が転職したときは未上場の会社でしたが、上場を目指していたので、 月次決算制度を採用して毎月しっかりと決算して経営管理をしていました。
このように、私の会計実務体験によると、会社によって売上原価対立法を使う 会社もあり、三分法を使う会社もあるのでした。分記法は会計実務では体験し たことはありません。
日商簿記3級では、上記の対談本を読んで考えますと、簿記教育の大家が教室 で初歩の学習者に分かりやすく教えることができると考えて、まず分記法を教え 次に三分法を教えるという教育法が反映しています。
そして、商品売買処理方法の 1つとしてアメリカで実施されているという 売上原価対立法が日商簿記2級で取上げられるのでした。
私には簿記教師の経験がありませんので、この方法が初歩の学習者に分かりやす いのかどうかは分かりません。
( 分記法、売上原価対立法、三分法、の順に学ぶと分かりやすい )
しかし、私の長い会計実務の経験から考えますと、商品売買の仕訳の方法として は1、分記法 2、売上原価対立法 3、三分法、の順番で勉強するのが良いと 思います。
分記法は素朴であり、簿記の原理に従った仕訳ですので誰にでも分かりやすいです。
そして、売上原価対立法も簿記の原理に従った仕訳であり、思考が直線的に流れて、 損益計算書とも無理なく繋がります。
そして、分記法と売上原価対立法を勉強した後であれば、思考の流れが逆流し、また、 損益計算書との繋がりが勘定科目という観点からは途切れている三分法についても、 その構造と計算を早く理解できます。
更に余裕があれば、「スッキリわかる日商簿記3級 第7版 滝澤ななみ TAC出版」 の241頁に出ている(参考)「売上原価を売上原価勘定で算定する方法」を 勉強します。この処理方法は三分法と売上原価対立法を混ぜ合わせた方法ですので 最後に勉強するのが良いです。
( 簿記は商業の実務から生まれた技術であった )
会計の勉強は、日商簿記3級から始めます。簿記の構造と計算がしっかり、まとまって いるからです。
しかし、会計実務が日商簿記3級と相違する点がある場合は、会計の原理に反しない限り、 会計実務を大切にして考えることが重要です。
なぜならば、簿記は学者の方(かた)が研究室で考えて作ったものではなく、500年 以上前にイタリアの商人の所で、商業の実務の中から生まれて世界中に広まった技術だか らです。そのため、簿記の場合、真理は研究室よりも、むしろ商業の現場にあります。
「スッキリわかる日商簿記3級 第7版 滝澤ななみ TAC出版」の本には問題集がセットに なっています。テキストを一通り読み終わりましたら問題集をやると良いです。解答用紙 もついているので答えを鉛筆などで書きながらやると簿記がよく分かります。簿記が生まれ たときの追体験をすることになるからです。
会計の素養が無いのに会計課に配属された方は毎日の慣れない仕事でヘトヘトになるので、 問題集を全部やるのはとても大変です。その場合は、テキストを読んで分からない所だけ、 問題をやってみるのもよいことです。
全く分からない所は解答を見ながら解答用紙に書き写してみます。そうすると、 簿記の構造と計算が分かってきます。この本の一番良い所は、問題集と解答用紙がセットに なっていて、合理的に簿記を勉強できることです。
それから、活字が大きいことと、用語にフリガナがふってあるのも助かります。活字が 小さいと目が疲れますし、初めて簿記を勉強する人にとっては、どのように読むのだ ろうと迷う用語がいくつも出てくるからです。用語がキチンと読めると理解が進みます。
日商簿記は、3級、2級、1級、と段階的に進むようになっていますが、会計実務を 担当する方は、別に、その段階にこだわる必要は無く、理解を深めて仕事に生かせるように、 合理的に勉強してしていけば良いわけです。
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(了)

