新入社員は心を鍛える(1)
新緑が目に心地よい季節になりました。この4月に会社に入って、 新入社員になった人の中には、思っていたとおりにならなくて、悩んで いる人がいるかもしれません。
会社には良い人ばかりがいるわけではありません。私が経験したのは、 ある社員は新入社員が入ってくると、新入社員に私用を言いつけるの です。「煙草を買って来い」と言うのです。
新入社員が、大人しく煙草を買ってきたら、こいつは大人しいな、と 次から次へと色々な事を言いつけて支配しようとするのです。悪人です。 このような悪人もいるのが会社です。
こうした悪人に振り回されずに、落ち着いて、うまく対応できる ように会社員は心を鍛えておかなければなりません。
( 会社員は苦しい局面に出会うことがある )
若い時、体を鍛えるということは多くの人が体験しています。私も 学校の体育の時間に運動を教わりました。それから、放課後には毎日、 運動系の部活をして体を鍛えました。
一方、学校で、心を鍛える、という時間はありませんでした。その ため、会社員は自分で、若い青年時代に心を鍛えておくということが 大切です。
会社員は、長い会社生活の中で厳しい局面に置かれることがあります。 その厳しい局面を乗り越えていくには、心が鍛えられていなければなり ません。
( ストア哲学で心を鍛える )
しかし、問題はどのようにして心を鍛えるか、ということです。私が、 辛(つら)いことの多い会社員生活を続けている中で出会ったのは、 ストア哲学者、エピクテトスの「提要」でした。ストア哲学は、 ストイック(stoic)という日本語でも使われる言葉の語源です。
私は、スイスの法律家、カール・ヒルティの著作集の中で、 エピクテトスの「提要」を読んだのです。カール・ヒルティは敬虔で 熱心なキリスト教徒ですが、キリスト教のような宗教の理解にはある 程度の人生経験が必要であるため、まだ若い青年が心を鍛えて優れた 人格を養うためにはキリスト教よりストア哲学の方(ほう)が良いと 考えてエピクテトスの「提要」の原典を訳出し、註をつけたのでした。
私たちは、哲学というと難しい用語が沢山出てきて、そして、分厚い本 をイメージします。しかし、エピクテトスの「提要」には、難しい用語は 1つも出てきません。例えば、最初の書き出しのところは次のような文章 で始まります。
「ある物事にはわれわれの力が及び、他の物事にはわれわれの力は及ばない。 われわれの力がおよぶものは、判断、努力、欲望、嫌悪など、一語で言えば、 われわれの意思の所産である一切である。われわれの力が及ばないものは、 われわれの身体、財産、名誉、官職など、われわれの作為でないところの 一切である。〜 略 〜 」ヒルティ著作集T幸福論 1 1978年9月5日再版第1刷発行 訳者 氷上英廣 白水社 41頁。
このように、難しい用語もなく日常の平易な言葉で書かれていくのです。 そして、全体は小冊子のように短いのです。
この本は現在、岩波文庫から「幸福論(第1部)ヒルティ著 草間平作訳」 として出版されていて、とても入手しやすくなっています。
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ヒルティが若い青年にエピクテトスの「提要」を強く薦めるのは、 1.体系的であること、2.簡潔であること、3. 実践的であること、 などが、その理由です。そして、これらのことが、まだ若い青年が心を鍛え て人格を養うのに極めて有効であると考えるのです。
西洋の良き時代には、ストア哲学は学校教育において古典教育として、 とても重視されていました。そして、今も、目立たないけれども欧米の世界 ではストア哲学の精神が強く流れ続けています。
何年か前のアメリカの国防長官、ジェームズ・マティス(James Mattis)は、 マルクス・アウレリウスの「自省録(じせいろく)」を愛読書としてあげて います。マルクス・アウレリウスもストア哲学者として有名であり、 私たちが学校で習う世界史の教科書にローマ帝国の皇帝として出てくるので 名前を知っている方(かた)も多いと思います。
こうして、現代においても、ストア哲学は欧米人の知性と人格を形作る 重要な教養となっているのです。
(次頁に続きます)


